株式会社船場
平均34時間の残業を18時間に大幅削減。残業時間の削減だけでなく営業利益を3.4倍に。
事例ポイント
課題
- 打刻時間の修正や未打刻が多く、正確な勤怠データを取得できていなかった
- 月締め後でないと勤怠状況が把握できず、長時間労働者へ月中の打ち手が講じられなかった
- システムに柔軟性がなく多様な働き方を促進できなかった
決め手
- 従業員がストレスフリーに出退勤登録を行える打刻機能を搭載
- 随時、労働時間がモニタリングできるレポート・ダッシュボード機能
- 無理なく多様な勤務体系を取り入れられるシステム基盤と設定マスタの柔軟
効果
- 勤怠の日次登録が定着化し、打刻率が概ね100%に
- 月中の労務状況を踏まえ先手が打てるようになり、残業時間を2019年の平均34時間から2023年実績平均18時間までに削減
- 各ライフイベントに応じた柔軟な働き方を実現し、育休後の復帰率が100%に
- 元々5営業日かかっていた月次締め作業が1営業日に短縮
事例概要
機能 | 勤怠管理, 工数管理,経費精算,レポート・ダッシュボード |
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業種 | 建設・不動産・インフラ |
従業員数 | 100~499人 |
「Good Ethical Company」というビジョンを掲げ、未来にやさしい空間づくりを行う株式会社船場。そして同社は「人を大切にする会社」としても知られている。その取り組みを支えているのが、2018年に導入されたチームスピリットだ。出退勤の登録が楽にできるICカード打刻によってほぼ100%の打刻率を実現し、精度の高い勤怠データを取得すると共に、柔軟なカスタマイズ性を活かすことで新たな時短・休暇制度を矢継ぎ早に導入。また勤怠・工数のデータを本人や上司にフィードバックすることで、長時間労働の是正に向けた意識変革も推進している。これによって生産性が向上し、営業利益が3年間で約3.4倍に。また人事本部における締め作業の負担も大幅に軽減している。
当初の目的は「既存の勤怠管理システムの課題」を解決すること
1947年に創業し、商業施設からオフィス、教育施設、ホテルなど、幅広い領域で空間づくりを行っている同社。2024年7月にオープンした「KITTE大阪」や、「サントリー天然水」の製造過程を楽しく学べるブランド体験型施設など、著名な施設を数多く手がけている。また、ファッション業界の余剰在庫解決や環境負荷軽減にチャレンジする三井不動産の「木更津コンセプトストア」や、廃材を再利用し新たな建材として空間に活用した「TOKYO シェアオフィス墨田」など、未来にやさしいエシカル(人や地球環境、社会、地域に配慮した)デザインも積極的に推進。自社東京本社オフィスも「地球や⼈・社会にやさしいグッドエシカルなオフィス」にするため、2021年4月に全面リニューアルしている。
建設業界では長時間労働が大きな問題になっているが、同社は残業時間が極めて短く、柔軟な働き方を可能にする様々な制度も用意されている。このような取り組みを支えているのが、2018年に導入されたチームスピリットである。しかし導入当初の目的は、正確な勤怠情報を登録することのみだった。
「私は2017年10月に入社したのですが、そのときにはすでにチームスピリットの導入が決まっていました」と語るのは、人事本部で本部長を務める佐藤 世津子 氏。チームスピリット導入の背景には、次の問題が従来の勤怠管理システムにあったと振り返る。
人事本部 本部長 佐藤氏
「従来のシステムはPCを立ち上げないと打刻ができない、勤怠管理と工数登録が別のシステムであり、事務処理に不便を感じている社員が多い状況でした。」
この問題を解決するためにチームスピリットが選択されたポイントは、大きく3つあった。
「まず第1は、勤怠管理と工数登録が同じシステムで実施でき効率的であること。第2は、システムの柔軟性が高く、部門や役職などセグメントによって設定をカスタマイズできること。そして第3が、出退勤時の打刻をICカード付の社員証で登録ができることです。これに加えて直感的で操作に困らないユーザーインターフェースも、従業員から高く評価されています。」
勤怠意識を高めるユニークな施策を実施
同社従業員の多くは、仕事に対するプロ意識が高く、時間をかけてでもよい仕事をしたいという気持ちが強いため、労働時間への意識が高くはなかったという。そこで入社当初の佐藤氏は、労働時間の多い従業員と産業医との面談セッティングに従事。長時間労働が心身へ及ぼす悪影響を説明し、労働時間を削減する意識変革の取り組みを行なった。その後、2018年6月からチームスピリットの導入担当として、既存システムとの並行稼働をしながら環境構築と従業員へのオンボーディングを推進したという。
その後、チームスピリットのカスタマイズ性を活かした様々な取り組みを行っていった。その1つが、月の残業時間を可視化する「残業メーター」だ。残業時間がリアルタイムで確認できるようになっている。ホーム画面やレポートのカスタマイズは佐藤氏自らが行っており、IT知識が高くない人でも操作できる使いやすいUI/UXもチームスピリットの魅力だという。
「残業時間が多かったり打刻漏れが発生したり、等で勤務時間が未登録の従業員には、自動でアラートが送られるようになっています。このように特定の状況に対して自動でアラートを出せるのも、チームスピリットのいいところだと思います。」
自分の勤務状況を日常的に把握してもらうための工夫も行われている。同社では日々の業務基盤としてSalesforceプラットフォームが使われている。そのホーム画面によく使用する機能やアプリケーションをアイコン表示しており、勤怠レポートのアイコンも並べている。勤怠レポートのアイコンをクリックするとチームスピリットから出力した有給休暇取得率レポートなどが見られるようになっている。
また、当初の導入目的の一つであった勤怠と工数データを一元管理できることもチームスピリットの魅力だと佐藤氏は次のように語る。
「以前は勤怠と工数を別々のシステムで管理しており、週1回の頻度で工数登録をするようルールを決めておりましたが、実態としては月末にまとめて登録が行われるケースが多く、月末にならないとプロジェクトの予実状況が把握できませんでした。チームスピリットで勤怠と工数を一元化してからは工数の日次登録も徹底され、リアルタイムなプロジェクト状況の把握と速やかな打ち手を講じることができるようになりました。」
人事本部で労務管理を担当している三輪 祐 氏は、従業員の利用率が高い「勤務表」の利便性について次のように評価した。
人事本部HRBP部 三輪氏
「チームスピリットの勤務表は労働時間の内訳をわかりやすく色分けしてくれます。所定労働時間、休憩時間、残業時間など、同じ就業時間によって表示されるグラフのカラーが分かれ一目で自身の労働時間の内容を把握できます。そのため、今月働き過ぎか否かの確認が容易になり、労働時間のセルフマネジメントに役立っています。」
そしてPCでしか行えなかった打刻も、ICカードで簡単にできるようになったため、PCの立ち上がりが遅いなど従来抱えていた問題も解消された。その結果、打刻率はほぼ100%となっており、正確な勤怠データが取得できるようになっている。
チームスピリットの柔軟性を活かして新制度を次々に導入
「実際にチームスピリットを使ってみることで、様々なことが実現できることがわかりました」。2019年にはこの特徴を活かし、時短勤務制度や新たな休暇制度などが続々と追加されていく。
まず2019年4月には、以前は「10時から16時」などと固定的だった時短勤務制度を、30分単位で設定できるように変更。また時間単位有給休暇も導入された。過去に一度導入したにもかかわらず、管理が難しいという理由で廃止されたフレックスタイムも、改めて導入されている。
これらと同じ時期に、年次有給休暇を70%以上取得した場合にさらに2日間の休暇を付与する「エクストラ休暇」も導入。これは有給休暇取得率を高めるための制度だ。
さらに、コロナ禍が本格化した2020年2月に在宅勤務の導入や時短勤務とフレックスタイムを併用できる「時短フレックス」も導入。10時から15時をコアタイムとし、1日の勤務時間を5時間/6時間/7時間から選べるようにした上で、過不足が発生した場合には月内で調整すればいいことになった。これは育児休暇明けの従業員からの要望によるものであり、現在では育児休暇取得後の復帰率が100%になっている。
「このような新たな制度を矢継ぎ早に導入できたのは、勤怠管理の基盤を支えるチームスピリットの柔軟性が高く、新規項目などを簡単に追加できるからです」と佐藤氏。育児休暇も2021年1月の法改正で半日単位から時間単位での取得が可能になったが、このような法改正にも迅速に対応できたという。
これらの制度を追加した後、2021年には佐藤氏が課長に就任。2022年に改めて「長時間労働の是正」を全社に向けて発信した。
「ずっと工夫しているのは、『残業時間を減らそう』ではなく『自分自身の健康を考えてほしい』というメッセージにしていることです。他業界から転職してきた人間から見て、建設業界には『良い仕事をするには長時間労働が当たり前』という文化を感じます。これを変えていくことは、従業員の健康を大切にしながら事業を継続していく上で、避けて通れないことだと考えています」と佐藤氏。
最大の成果は「長時間労働是正」に向けた従業員の意識変革
このような一連の取り組みは、様々な成果を生み出していく。その中でも最大のものが、勤怠に対する従業員の意識変革だといえるだろう。
「勤怠をないがしろにする社員はほぼいなくなりました」と語る。打刻しない従業員にはアラートメールが自動的に送られるようになっているため、「あとで打刻すればいい」「月末にまとめてやればいい」という考え方がなくなったのだという。また残業時間がリアルタイムでわかるため、残業が多くなりそうな場合には、本人や上司が早い段階で調整することも容易になった。「このようなアラートメールが自動的に送られるのも、チームスピリットのいいところだと思います。」
また自動メールだけでなく人事本部からも「残業時間がオーバーしそうな従業員には、その月の15日頃から連絡しており、打刻漏れも早い段階で対応しています」と続けた。
「以前は人事部門も月末の締めの後でないと勤怠状況がわからなかったため、月内での調整依頼ができませんでした。今では残業時間が長時間化する前に、その兆候を捉えて調整を依頼できます。残業時間が増えそうな場合にどう対応すべきかなど、各部門の上司から相談を受けることも増えてきました。」
従業員や上司の意識が変わったことで、残業時間は急速に減っていった。チームスピリット導入前は80時間を超える従業員も珍しくなかったが2019年には全社平均34時間、2020年には24時間にまで低下。2023年には平均18時間となり、2024年は16時間を目標にしているという。
長時間労働の是正は当然ながら、その従業員が従事しているプロジェクトの利益確保にも貢献することになる。実際に2020年から2023年の3年間で、売上高は約4%増なのに対し、営業利益は約3.4倍になっている。
また勤怠管理と工数管理を一元化し、工数もリアルタイムで把握できることで、プロジェクトリーダーの行動も変わりつつあると佐藤氏は言う。「プロジェクトリーダーは以前から『自分のプロジェクトが赤字にならないか』を強く意識していましたが、正確な予実管理を行うにはメンバーの工数登録が必須であるため、メンバーにきちんと打刻と工数登録をすることを促すようになっています。」
有給休暇取得率も上昇しており、現在では平均6割近くに上っている。
月末の締め作業に費やす時間が5営業日から1営業日に大幅短縮
人事本部における締め作業の負担が軽減したことも、見逃せない効果だといえるだろう。
「以前は5営業日かけて締め作業を行っていましたが、現在では1営業日で完了します」と語る。その大きな理由は、締めの段階で問題が発生しそうな一般社員やその上司に対し、事前に調整依頼を出しているからだという。
また人事部門では100種類近くの労務データをまとめたレポートを作成しているが、これもリアルタイムで自動作成されるため、レポート作成の負荷も軽減された。
さらに、工数管理の負担も軽減されている。「入力された工数データは毎朝基幹システムに連携しているので、そこから人件費算出などが行われてSalesforceで参照できるようになっていますが、スピーディに数字が反映され利益もすぐに分かるようになっています」と三輪氏。ここで問題になるのは、プロジェクトでの工数登録にミスがありエラーになってしまうケースだが、その場合にはすぐに担当者に連絡し、再登録を行ってもらうのだという。「従来であれば、エラー処理を行うには膨大な時間がかかってしまうのですが、チームスピリットは勤怠管理と工数管理が同じインターフェイスで行えるため、登録ミスが発生しにくく今では月に数件程度しかありません」と三輪氏は語る。
「人材採用においても、従業員を大切にしている会社であるということを訴求できています。同業界ではデジタル活用と働き方改革のトップランナーであることを自負しており、ここに魅力を感じて応募する求職者も増えています」と佐藤氏。
今後力を入れて取り組みたいことは、従業員一人ひとりが持つ力を最大限に発揮できる環境を整備することと言う。
チームスピリットの柔軟性を活かしながら、人を大切にする取り組みを積極的に推進している船場。同社のエシカルな活動は、これからもさらに加速していく。
勤怠・工数・経費精算などをクラウドで一元化
株式会社船場
- 設立
- 1962年2月(創業:1947年7月)
- 事業内容
- 空間づくりにおける調査・分析、コンセプトメイキング、企画・コンサルティング、デザイン・設計、制作・施工、デジタル技術を活かした空間演出、メンテナンスならびに施設運営
- URL
- https://www.semba1008.co.jp/
- 取材年月
- 2024年9月