工数見積もりの基本|手法・失敗を避けるコツと便利なツールを紹介
著者:チームスピリット編集部
目次
- 工数の見積もりを任せられたが、どうすれば良いのかわからない
- 工数の見積もりと実績に差が出ないコツを知りたい
- 上手く工数を見積もる方法やツールを教えてほしい
このような悩みを持つ方も多いのではないでしょうか?
本記事では、工数見積もりが初めてという方にも分かるよう、基礎知識を解説した後、工数見積もりのよくある失敗例を元に、精度の高い見積もりを作るポイントなどを解説していきます。
納得感のある見積もりが作れれば、クライアントからの信頼獲得にも繋がります。
また会社としての信頼だけでなく、見積もり作成者個人の評価や信用にも直結します。ぜひ本記事を参考にしてご自身やチームの工数見積もりに活かしてみてください。
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- 工数管理が従業員の負荷を高めている
- 工数の一括登録が常態化し精緻な原価管理ができていない
- リアルタイムにプロジェクトの予実管理ができていない
工数管理に課題を抱える企業様は多いものの、既存の方法を脱せず応急措置的な業務改善を繰り返しているケースが見受けられます。
ぜひ同様の課題を抱えていた他社事例を参考に、自社の抜本的な業務改善や正確な工数管理の実現の一助としてお役立てください。
目次
工数見積もりとは【基礎知識】
工数の見積もりを適切に行うためには、工数・見積もりに関する基礎知識を押さえておくことが大切です。まずは「工数見積もりが初めて」という方に向けて、基礎知識から解説します。
工数とは「業務に必要な人数×時間」のこと
工数とは、あるプロジェクトを完了させるために必要な作業量を「人数」と「時間」で示したものであり、「作業時間×人数」で算出します。「何人でどのくらいの期間がかかったか」という単位で表現し、計算に活用します。
工数を見積もる際は、「◯人時」「◯人日」「◯人月」といった単位を用います。それぞれの意味合いや使い方は以下のとおりです。
単位 | 説明 | 例 |
---|---|---|
人時 | 業務を終わらせるために必要な工数を「人数×時間」で表したもの | 3人時→担当者1人が3時間で終えられる、または担当者3人がそれぞれ1時間かけて終えられる作業量 |
人日 | 業務を終わらせるために必要な工数を「人数×日数」で表したもの | 2人日→担当者1人が2日かけて終えられる、または担当者2人がそれぞれ1日かけて終えられる作業量 |
人月 | 業務を終わらせるために必要な工数を「人数×月」で表したもの | 4人月→担当者1人が4ヶ月かけて終えられる、または担当者4人がそれぞれ1ヶ月かけて終えられる作業量 |
細かなタスクの工数を見積もる際は「人時」単位を使い、プロジェクト全体の工数を出すときに「人月」または「人日」単位を使うのが一般的です。
見積書等に記載する工数には単位を明確に記載し、認識の食い違いがないように気をつけましょう。
上記の単位を用いた工数の計算方法は、以下のとおりです。
工数(人時・日・月)=作業人数×作業時間(時間・日・月) |
例えば、ある作業に対し担当者5人で2ヶ月かかると見積もった場合、工数は10人月(作業人数5人×作業時間2ヶ月)となります。同様に2人で5ヶ月作業する場合も10人月となるため、案件の納期や投入できるリソースにあわせて調整を行います。
工数見積もりとは「プロジェクトに必要な工数」を見積もること
工数見積もりとは、プロジェクトや作業を完了するために必要な労力や時間(工数)を予測することですが、その主な目的は以下の2つです。
- 社外に見積書を出すため
- プロジェクトを始める前にどのくらい工数を確保するか予定を立てるため
工数計算を行うことで、プロジェクト開始前に、必要な人員や期間・見積もりを適切に設定できます。
例えば、A社から、通常は1ヶ月5人体制で対応できるプロジェクト(5人月)を受注していたとします。
A社からの追加のプロジェクトの発注があり、それはいつも通りの5人月では足りない難しい内容であった場合どうしたら良いでしょうか。見積書の金額も当然、いつもよりも多めに出さなければなりません。
このような場合に、工数を細かく計算できていると、それを根拠として顧客に丁寧に説明することができます。
また、工数見積もりは、プロジェクト始動前にどのくらい工数を確保すればプロジェクトを支障なく進められそうかの予定を立てる上でも役立ちます。
工数計算を正しく行っていないと「何となく」のスケジュールになってしまい、遅延が発生したり、納期に間に合わなくなってしまったりする恐れがあります。
しかし、プロジェクトに必要なタスクを細分化し、過去の類似プロジェクトの実績などを加味して工数を予測すれば、「どのタスクに」「誰が」「何人日かけて」「どのように進められるのか」が明確になり、各プロジェクトに対して最適なリソース配分が可能になります。
このように工数見積もりは、見積書の金額算出や社内リソース確保のための根拠として役立てられます。
工数の見積もりから実績入力の手順
工数の見積もりから実績入力までの流れと、やるべきことは以下のとおりです。
手順 | 実施タイミング | 具体的な内容 |
---|---|---|
1.見積もり作成の準備を行う | クライアントからの依頼後 |
・依頼内容を精査する ・不明点をクライアントに確認する ・参加メンバー、部署などを設定する ・プロジェクト完成までのロードマップを作成する |
2.管理工数を見積もる | 手順1のあと | ・ミーティングなどの進捗管理や、レビューなどの品質管理といった、管理業務にかかる工数を見積もる |
3.実作業工数を見積もる | 手順1のあと | ・プロジェクト達成までの実作業にかかる工数を見積もる |
4.クライアントに見積もり内容を提示し、精査する | 社内での見積もり作成後 |
・見積もり内容をクライアントに提示し、数値の根拠や詳細の説明を行う ・必要に応じて見積もりを修正する |
5.実作業を開始し、工数実績を入力していく | プロジェクト開始後 | ・プロジェクトが開始したら、作業工数を記録していく |
6.工数を分析する | プロジェクトの節目、またはプロジェクト終了後 |
・見積もったスケジュール通りにタスクが進行しているかをチェックする ・プロジェクトでボトルネックとなっている部分を洗い出し、修正などを加える |
工数管理ツールなども活用しながら、精度の高い見積もりを作成してみましょう。
工数見積もりをあやまると起こる弊害
工数見積もりを誤ると、以下のようなさまざまな弊害が生じます。
- 納期遅れなどでクライアントからの信頼が揺らいでしまう
- 工数を低く見積もると社内負荷が増えてしまう
- 工数を低く見積もると赤字になってしまう
工数見積もりが適切でないと、プロジェクトの完了が予定より遅れてしまう可能性があります。実際に必要な作業量よりも少ない工数で見積もりを立ててしまうと、当初の予定通りに作業が進まなくなるためです。納期が遅れると、クライアントからの信頼も揺らいでしまうでしょう。
また、工数を低く見積もってしまうと、プロジェクトにアサインされた担当者に過度な負担がかかってしまうケースもあります。工数見積もりが甘いことで、プロジェクトを予定通りに完了させる上で必要な工数を確保できず、一人あたりの作業量が増え、残業を強いられることがあるためです。それにより、担当者は長時間労働を強いられ、心身の健康を損なうリスクもあります。
加えて、実際の工数よりも低い見積もりに基づいて契約金額を設定してしまうと、実際にかかる労務費や外注費などのコストが、契約金額を上回ってしまい、赤字になってしまうこともあります。
こうした問題を避けるためにも、できるだけ正確な工数見積もりは必要なのです。
工数の見積もりができない・うまくいかない理由
工数の見積もりには一定の根拠が必要であり「なんとなく」では精度の高い見積もりは作れません。
赤字やスケジュール遅延が発生してしまう場合は、以下のような原因が考えられます。
- タスクが細分化されていない
- スケジュールにバッファを持たせていない
- 過去の工数実績を参考にしていない
- 過去の工数実績が正しくない
- 現場やクライアントへのヒアリングが不十分
上記の課題を抱えたまま見積もりを行うことにはどんな問題点があるのか、また具体的な解決策について解説していきます。
1.タスクが細分化されていない
タスクが細分化されていない工数見積もりの例は、以下のとおりです。
<システム開発の工数見積もり例>
- 設計・・・1人日
- 開発・・・3人日
- テスト・・・2人日
上記のように大枠の業務で工数を見積もってしまうと、「誰が、何を、どのように行うか」といった細かな情報が不透明になりやすいという問題点があります。
具体的な作業がイメージできないため、「なんとなく」で工数を考えてしまい、不正確な見積もりとなる可能性が高くなるのです。
例えばシステム開発であれば、「設計」のなかには「UIの設計」「機能の設計」「設計したもののレビューや確認のミーティング」といった作業が含まれているはずです。上記の例を、より正確性のある見積もりに変えると以下のようになります。
<システム開発の工数見積もり例>
設計 |
1人日 |
タスクA・・・5時間 |
---|---|---|
タスクB・・・3時間 |
||
開発 |
3人日 |
タスクC・・・2時間 |
タスクD・・・4時間 |
||
タスクE・・・5時間 |
||
(略) |
||
テスト |
2人日 |
タスクF・・・1時間 |
タスクG・・・3時間 |
||
(略) |
このようにタスクを細分化すれば、プロジェクト完了までに必要な作業内容と工数を把握しやすくなるのです。
業務開始後にタスクごとの進捗管理が行いやすくなるため、遅延などに対しピンポイントで対応できるようにもなります。
2.スケジュールにバッファを持たせていない
以下のような工数の見積もりにはバッファが無いため、想定外の事態が起こった際にスムーズな対応ができなくなる可能性があります。
- 担当者が一日中担当業務に注力できると仮定して、工数を見積もっている
- 担当者のスキルやレベルを考慮して見積もりを作成していない
- 未知の案件であっても、過去の似た工数の事例をそのまま転用して見積もりをしている
例えば5人日(※)かかる業務のスケジュールを考える際に「5人のメンバーをアサインできるから1日で完了する」と考えるのはNGです。なぜなら、それぞれのメンバーは他の業務を掛け持ちしていることも多く、実際には1日の50%しかその案件にリソースを割けない、といったこともあるからです。
※「人日」とは、業務を終わらせるために必要な工数を「人数×日数」で表したものです。5人日の場合は、「1人×5日」「5人×1日」などを表します。
また「集中すれば終わらせることができるスケジュール」は、あくまでも「理想値」であると認識する必要があります。
実際の担当者は、担当業務以外にも労務作業や別件への対応、ミーティングなどに追われており、集中して案件に注力できるわけではないからです。理想値のみで工数を見積もると、不測の事態に対応することが困難になってしまいます。
予想外のエラーや担当者の体調不良、クライアントからの急な要件変更などがあっても柔軟に対応できるよう、工数見積もりの段階でバッファを設定することが重要です。
3.過去の工数実績を参考にしていない
新しい案件の工数を見積もる際、過去の似たプロジェクトの工数データを参照すれば、少ない労力で工数の見積もりを作成することができます。
過去の工数データを有効に活用できていない場合、以下のような課題が隠れている可能性があります。
- 過去の工数データの保存場所が明確に定められていない
- 工数実績をエクセル(Excel)などで保存しており、共有や検索が難しい
- 工数管理ツールを使っているが、過去データの保存に制限がある
過去の工数実績をそのまま現在の案件に転用するのは避けるべきですが、実績をベースに調整が加えられればより精度の高い見積もりの作成が可能です。予想できなかったトラブルや考慮しきれなかったタスクなども含めた工数をもとに、見積もりが作れるからです。
経験のない新規案件であっても、一部のタスクなどは見積もりの参考にできるケースもあります。
過去のデータを参考にするには、過去実績の検索がしやすい工数管理ツールを使用したり、工数データをいつでも呼び出せるように管理することが大切です。効率よく過去のデータを使うことで、工数見積もりの負担を最小限にできます。
4.過去の工数実績が正しくない
工数の実績入力が正しく行えていないと、せっかく過去の実績を参考に見積もりを作ろうとしても、参考にならないどころか誤った情報で見積もりを作成してしまうおそれがあります。
以下のような場合は、工数の実績データが正確でない可能性が高くなります。
- 日常的に、工数の入力漏れや、後付けで入力するケースが多い
- 工数と勤怠の整合性が取れていない
- 工数入力に関するルールが定められていない
工数の見積もりに過去のデータを活用するには、そもそも日頃から正しい工数管理を行っている必要があります。
以下の工夫によって、正しい工数実績を入力するように心がけましょう。
- 勤怠管理と紐づいた工数管理ツールを使用する
- 入力ミスや入力漏れのアラート機能があるツールを使用する
- 社員が日々の工数入力を負担に感じず、習慣化ができるツールを使用する
- 工数入力に関する社内ルールを明確にする
工数管理を実践しているものの、うまく管理できていないと感じている場合は、こちらの記事も合わせてご確認ください。
5.現場やクライアントへのヒアリングが不十分
工数の見積もりがうまくいかない理由として、現場やクライアントへのヒアリングが不十分であることも挙げられます。現場やクライアントと認識のズレがあると、途中で追加作業が発生したり変更したりするなど、大幅な軌道修正が必要になる可能性もあるからです。
精度高く工数を見積もるには、プロジェクトのゴールやレベル感、要件を最初にしっかりとヒアリングすることが重要となります。
例えばアプリ開発のプロジェクトの場合、既存のリソースを流用できるかできないかで、工数に大幅な違いが生まれることが想定されます。
途中で追加の要望が出てくることが無いよう、見積もりの段階で要望を全て聞き取って工数のイメージを明確にしておきましょう。
代表的な工数見積もりの4つの手法
根拠のある工数を見積もるためには、正しい手法に則った見積もり作成が必要です。プロジェクトでよく使用される、代表的な4つの工数見積もり手法について解説します。
手法 |
解説 |
精度 |
ポイント |
---|---|---|---|
類推法 |
過去の工数実績を引用する方法 |
低~中 |
・過去実績を引用すればいいので手軽 ・過去案件と同一なら高い精度 ・メンバーやタスク内容に違いがあったときは精度が大きく下がる |
三点見積もり法 |
楽観値、最可能値、悲観値の三点を設定し、計算によって見積もりを求める方法 |
中 |
・バッファを設けつつ見積もりが作成できる ・詳細の情報が揃っていなくても見積もりが作りやすい |
ボトムアップ法 |
プロジェクト達成のタスクをすべて洗い出し、それぞれの工数を合算して全体の工数を見積もる方法 |
高 |
・作成に時間がかかる ・不確定要素の多い大規模プロジェクトには使いづらい |
係数(パラメトリック)法 |
過去の工数実績から係数を設定し、計算によって見積もりを求める方法 |
中~高 |
・過去データがあれば、精度の高い見積もりができる ・統計学などの専門知識が必要 ・クライアントからの信頼性が得やすい |
それぞれのやり方や考え方、メリット・デメリット等を確認していきましょう。
1. 類推法
現案件と似通った(または同一の)過去の工数実績を元に、見積もりを作成する方法です。
すべての工程が似通った案件の場合は、過去実績をそのまま現在の案件の見積もりとすることができるため、非常に手軽に取り入れられます。一部のタスクが同一の場合は、同一箇所のみを参考にすることも可能です。
類推法のメリットとデメリット
メリット |
デメリット |
---|---|
|
|
上記メリット、デメリットを考慮すると、類推法の使用をおすすめする場面は以下のとおりです。
- 工程や実作業の内容、参加メンバーのレベル等が過去実績と似ている案件について見積もる場合
- 普段から工数データを正確に取得し、管理している場合
- 参考にできる工数実績が多い場合
- 見積もり作成の経験が豊富な担当者が行う場合
2. 三点見積もり法
滞りなく進んだ場合の理想的な工数「楽観値」、最も現実的な工数「最可能値」、最も遅くなった場合の工数「悲観値」の3つを設定し、(「悲観値」+「4×最可能値」+「楽観値」)÷6の数式に当てはめて見積もりを取る方法です。
例をあげて、実際に計算してみましょう。
作業Aの工数を見積もる際、以下の意見が出たとします。
- 経験者が最速で作業すれば、1日で終わる
- 平均的には、3日で終わる
- 未経験者が担当する場合やトラブルがあった場合を想定すると、5日はかかる
上記の場合、楽観値が1日、最可能値が3日、悲観値が5日となります。よって(5日+4×3日+1日)÷6=3日、つまり作業Aの工数は3日と見積もることができます。
三点見積り法のメリットとデメリット
メリット |
デメリット |
---|---|
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|
上記メリット、デメリットを考慮すると、三点見積り法の使用をおすすめする場面は以下のとおりです。
- ある程度過去の実績を蓄積している企業の場合
- 参加メンバーの多い案件の見積もりをする場合
3. ボトムアップ法
ボトムアップ法とは、プロジェクトを構成するタスクそれぞれの工数を見積もり、合算することでプロジェクト全体の工数を見積もる方法です。
<WBSのイラスト>
上記のような構成図のことを「WBS」と呼び、プロジェクトタスクを大きな粒から小さな粒に階層別に分けたものを指します。ボトムアップ法ではまず、WBSを用いてタスクを細分化する作業から始めます。
タスクを洗い出したら、最終的にすべての工数を合算していきます。
以下のように、ガントチャート(カレンダー形式でプロジェクトの進捗を管理する一覧表)にタスクの内容と担当者や工数を設定すれば、プロジェクト管理も行えるようになります。
▼ガントチャートのイメージ図
※A列~F列(青枠~オレンジ枠)がWBSです。
ボトムアップ法のメリットとデメリット
メリット |
デメリット |
---|---|
|
|
上記メリット、デメリットを考慮すると、 ボトムアップ法の使用をおすすめする場面は以下のとおりです。
- プロジェクト開始後または要件定義後といった段階で再見積もりする場合
- 不確定要素が少ないプロジェクト
4. 係数(パラメトリック)法
過去の実績データから係数を設定し、統計的な法則を元にした計算式に当てはめて工数を算出する方法です。過去のデータを用いる点は類推法と同様ですが、数学的係数モデルに基づき、計算によって工数を導き出す点が、類推法とは異なります。
簡単な例で、係数法の見積もり計算を実践してみましょう。アクセサリーを50個製造する業務があるとします。そして過去に同様のアクセサリー10個を受注した際に、作成に10日間かかったとします。
すると、アクセサリーAを1個作るのにかかる時間は10個÷10日で1日という係数を求めることができるため、今回の業務にかかる時間は「50個×1日(係数)=50日」だとわかります。
ここまでの工程は類推法と似通っていますが、係数法の場合はさらに必要な各作業を「点数化」し、規模などの要素を変数として考慮して計算します。
統計学的な知識が必要になるため、統計ソフトなどのシステムにて行うか、専門家に相談するなどの対応が必要になるケースも多いでしょう。
なお工数計算に使用できる係数モデルは複数種類あるため、自社のプロジェクトに合った係数モデルを用いる必要があります。代表的な係数モデルは以下のとおりです(主にシステム開発の現場で用いられる工数見積もり法になります)。
- FP法
- LOC法
- COCOMO/COCOMO II
係数を使えば現在の案件に適した数値が求められるので、比較的精度の高い見積もりを行うことができます。
係数(パラメトリック)法のメリットとデメリット
メリット |
デメリット |
---|---|
|
|
上記メリット、デメリットを考慮すると、 係数(パラメトリック)法の使用をおすすめする場面は以下のとおりです。
- システム開発など、係数法による見積もり作成が有効な案件の場合
- 過去の工数を正確に取得している場合
- 工数実績が多い企業
- 係数法に用いられる係数モデルに対して、一定の知識がある場合
工数の見積もり精度を高め、失敗を防ぐポイント
工数の見積もり作成の失敗を防ぐポイントは、以下のとおりです。
- WBSを使ってタスクを細分化する
- 三点見積もり法でバッファを含めて見積もる
- 類推法や係数法で工数実績を参考にして見積もる
- 作業時間以外の工数も含めて見積もる
- 工数見積もり作成者以外の複数人からフィードバックを得る
- 工数管理ツールを導入する
これらの6つのポイントを意識して工数を見積もり・管理をすれば、工数データの信頼性は向上します。
1.WBSを使ってタスクを細分化する
タスクが細分化できておらず工数の見積もりがうまくいかないと感じている場合、先述したWBSを使ってタスクを細分化してみましょう。
例えば、Webサイトリニューアルのプロジェクトの第1ステップ「要件定義」がある場合、以下のようにタスクを階層別に細かく分けていきます。
タスクを細分化するコツは以下のとおりです。(上記の図:Webサイトリニューアルのプロジェクトの例)
- 「要件定義」といったプロジェクトの工程を「提案依頼書の読み込み」「アクセス解析」といった細かな要素に分割し、さらに「タスクA」「タスクB」など小粒のタスクに分ける
- タスク分割の際、小規模プロジェクトなら1タスク3時間前後、大規模プロジェクトなら1タスク数日前後の業務にまで細分化する
- タスクの工数を見積もる際は、「人月」単位ではなく30分~1時間区切りで見積もる
- WBSとあわせてガントチャートも活用して管理する
2.三点見積もり法を使うなど、適度なバッファを含めて見積もる
適度にバッファ(余裕)を設けて見積もりましょう。例えば5分刻みで作業を見積もるなど、あまりにもタイトに工数を計算してしまうと、不足の事態に対応できなくなります。
なお、適度にバッファを考慮して見積もる際は先述の「三点見積もり法」がおすすめです。
その他、バッファを考慮して工数を見積もるコツは以下のとおりです。
- 過去と同様の案件であっても過去の工数実績をそのまま見積もりに転用することは避け、担当者のスキルの差などを考慮する
- スケジュールだけでなく、リソースにも余裕をもたせる
- 各タスクに対して、小さなバッファを設ける
- 未知の案件に対しては、通常より大きめのバッファを設定する
上記も意識して、リスクに対応できる工数を見積もりましょう。
3.類推法や係数法を使い過去の工数実績を参考にして見積もる
正確な数値の工数実績データがあれば、類推法や係数法を用いた見積もりがおすすめです。過去の実績を参考に見積もるため、精度の高い工数の見積もりが期待できます。
- 類推法:小規模かつ、何度も経験のあるプロジェクトであれば、過去の工数実績をほぼそのまま転用する手法
- 係数法:過去のデータからタスクの工数係数を算出し、現在の案件に当てはめて工数を算出する手法
4.作業時間以外の工数も含めて見積もる
工数の見積もりでは、作業時間だけでなく「ミーティング」や「クライアントとの打ち合わせ」などの管理工数も計算に含めましょう。こうしたタスクは業務の中で意外と時間を要するケースもありますが、見落とされがちです。
ただ、コミュニケーションや打ち合わせなどの工数は、細かく見積もることが難しい場合も多いため、日々の工数管理をしっかりと行い、過去の実績を参照できる状態にするとよいでしょう。
作業時間以外の管理工数も見積もりに含めることで見積もりの精度が高まり、イレギュラーな工数にも余裕を持って対応できるようになります。
5.工数見積もり作成者以外の複数人からフィードバックを得る
工数見積もりは、複数人からのフィードバックを得ることで精度が高まります。一人で見積もりを行うと自分の経験や勘に偏ることがあり、思わぬ工数の見落としや計算ミスが発生する可能性があります。
作業に関わるさまざまな人からフィードバックを得ることで、見落としや予期せぬトラブルを防ぐことが可能です。例えば、上司だけでなく、プロジェクトの現場を熟知した経験者や過去に類似案件を担当した人の意見を聞くことで、イレギュラーが発生する可能性や時間がかかる工数などに気づけます。
6.工数管理ツールを導入する
精度の高い工数の見積もりを行うには、工数管理ツールの導入が効果的です。
多くの工数管理ツールには、過去の工数データを蓄積・分析する機能が搭載されているため、個人の経験や勘に頼らず、実績に基づいた見積もりが可能となります。また、勤怠管理ツールとの連携や工数の自動計算機能も搭載されているため、より正確な工数計算や見積もりが実現するのです。
工数の見積もりに使えるツールとは
工数を見積もる際に使うツールとして代表的なのは、「エクセル」か「工数管理ツール」です。
エクセルと工数管理ツール、それぞれのツールで工数管理をした場合の特徴をまとめました。
エクセル |
工数管理ツール |
|
---|---|---|
導入のしやすさ |
簡単 |
時間がかかる |
誤入力・改ざんのリスク |
高い |
低い |
入力漏れの発生しやすさ |
発生しやすい |
発生しづらい ※アラート機能や勤怠との紐づけ機能がある製品の場合 |
共有のしやすさ |
共有しづらい |
共有し同時入力できる |
出先からの入力しやすさ |
入力しづらい |
スマートフォンなどで出先から入力できる ※モバイル対応している製品の場合 |
分析のしやすさ |
ピボットテーブルなどで集計し直す必要がある |
項目を選ぶだけで簡単に集計・分析できる |
費用 |
無料 |
初期費用や月額費用がかかる |
それぞれの使い方や特徴、メリット・デメリットを詳しく解説します。
エクセルで工数を見積もる:テンプレート付き
エクセルでWBSとガントチャートのテンプレートを作成すれば、工数の見積もりに活用することができます。
例えば上記の画像のような表であれば、「タスク」の列に細分化したタスク内容を入力し、「計画」の列に見積もった期間を入力することでプロジェクトの工数を見積もることが可能です。
プロジェクト進行中に「計画(H~J列)」と「実績(K~M列)」をしっかり記入していれば、今後はそれを実績として参照することもできます。
以下の記事では上記ガントチャートのテンプレートがダウンロードできます。また自作する場合の作成方法も解説しているので、エクセルで工数を見積もりたい場合はぜひご参考になさってください。
工数管理をエクセルで!表の作成方法や使い方・テンプレートを紹介
エクセルの場合、無料でガントチャートを作れることがメリットです。一度ガントチャートのテンプレートを作成してしまえば、見積もりだけでなく工数実績を管理する際にも活用できます。
一方で、共同編集や共有が難しい点がデメリットです。また、同じ表の中でコストの計算も含めるとなると複雑な関数が必要になり、自作や無料テンプレートでは作成が難しい可能性があります。
工数管理ツールを使って工数を見積もる
工数管理ツールとは、その名の通りプロジェクトの工数を把握・改善するためのツールです。
例えば以下の機能を活用することができます。
- プロジェクト管理機能(WBS、ガントチャート)
- プロジェクト予実管理機能
- 過去の工数実績の分析機能
- 過去の工数実績の出力機能
工数管理ツールを使用するメリットは、工数の集計を自動で行ってくれる点や、過去の実績を引き出しやすいことが挙げられます。工数の分析機能も豊富なため、どのタスクが遅延しやすいのか、どういったケースに遅延が発生しやすいのかなど、見積もりの際に予測を立てることも可能です。
▼工数管理ツールの工数集計画面の例
上記画像は、工数管理ツール「チムスピ工数」の工数集計画面です。確認したい項目を選択するだけで、「担当者別」「プロジェクト別」などで工数を集計し、グラフ化ができます。
※工数管理ツールの入力や集計の操作は、製品によって異なります。
▼「チムスピ工数+プロジェクト原価管理(アドオン)」の画面例
上記の画像は、プロジェクト原価の管理画面です。入力された工数管理と単価からリアルタイムに原価を算出し、予定実績との差や黒字・赤字などが一目で確認できます。
このような工数データが都度一覧で確認できるため、精度の高い見積もりがしやすくなるのです。
一方デメリットは、一部の無料ツールを除いて月額費用が発生する点です。
とはいえ、工数管理ツールを使うことで正確な工数データを蓄積することが可能で、見積もりの精度向上に役立てることができるため、結果的には利益率の改善に繋がるケースも多いのです。
自社の工数見積もりや工数管理の課題と照らし合わせ、課題解決に役立つ場合は工数管理ツールの使用を検討してもよいでしょう。
正確な工数見積もりのためには「日頃の工数管理」が重要
精度の高い工数の見積もりを行うには、日頃から工数管理を正確に行っておくことがとても重要です。
工数管理とは、プロジェクトにかかる時間や日数などの工数について、進捗をリアルタイムに可視化して工数を把握しながら、適切に管理することを指します。
▼工数見積もりと管理の違い
工数見積もり | プロジェクト開始前に大まかな工数を予測すること |
---|---|
工数管理 | プロジェクトの実行中に、実際にかかった工数を継続的に記録し管理すること。進行中のプロジェクトの工数の修正や、次回以降の工数見積もりに役立てることが可能。 |
日頃からプロジェクトごとの工数管理がしっかりと行えていれば、どういうプロジェクトにどのくらいの工数がかかるのかなどのデータが蓄積されていくため、いざ見積もりを作るときにも必要な人員や期間・見積もりを正確に予測できるのです。
逆に言えば、日頃の工数管理が煩雑だと、正確な工数実績データが残らないため、精度の高い工数見積もりを出すことは難しくなってしまいます。その結果として、見積もりと実際の工数が乖離してしまう結果となります。
さらに、プロジェクト進行中に適切に工数管理を行うことで、見積もりの計画通りにプロジェクトが進んでいるか判断しやすくなります。「見積もり以上の人件費が発生していないか」「進捗に問題がないか」などにいち早く気づくことができ、軌道修正の判断もスピーディに行えます。
工数見積もりの精度を上げる「工数管理ツール」とは
工数の実績が正確に管理できておらず、見積もりに活かせないと感じている場合は、工数管理ツールの導入を検討してみましょう。
例えば工数管理ツールには、正確に工数を管理するための以下の機能があります。
正確に工数入力するための機能 |
工数実績を効率よく管理・分析する機能 |
---|---|
|
|
※機能の有無は製品によって異なります
特に勤怠システムと工数を紐付ける機能は、工数を正確に把握するために非常に有効です。勤怠と工数を紐付けると、工数が勤務時間の範囲内でしか設定できなくなり、不整合がなくなるからです。
工数管理ツールの費用相場は、以下のとおりです。
相場 |
説明 |
|
---|---|---|
初期費用 |
0円~200,000円 |
導入時に一度だけかかる費用 |
月額費用 |
1ユーザーあたり300円~1,000円 |
ユーザー数に応じて毎月発生する費用※製品によって異なる場合があります |
製品によっては、追加料金でオプション機能が付帯できるものもあります。
次からは、見積もり精度の向上に役立つ工数管理ツールを2つ具体的に紹介します。
おすすめ製品1.チムスピ工数(+チムスピ勤怠)
特徴や主な機能 |
など |
---|---|
初期費用 |
150,000円 |
月額費用 |
チムスピMixで「チムスピ勤怠」「チムスピ工数」を導入した場合 1ユーザーあたり600円~(50ライセンスから利用可能) |
チムスピ工数の特徴は、直感的かつ正確な工数入力ができるように工夫されている点です。工数入力には、以下の方法があります。
- スライダーを横に動かすだけで直感的に工数を入力できる機能
- 勤怠管理機能で取得した労働時間の範囲内で、各タスクやプロジェクトに使った時間の割合を指定して入力できる機能
- OutlookカレンダーやGoogleカレンダーを同一画面に映し、見比べながら入力できる機能
▼スライダーを横に動かすだけで直感的に工数を入力できる機能
つまみを左右に動かすことで、直感的に工数の入力が行えます。
また以下のように、画面右側に「1日の労働時間の何%をそのタスクに使ったか」を入力するだけで、工数を入力することもできます。
▼労働時間の範囲内で、各タスクやプロジェクトに使った時間の割合を指定して入力できる機能
例えば1日の労働時間が8時間だった場合に、40%(3.2時間)をプロジェクトAに、60%(4.8時間)をプロジェクトBに、といった形で指定することで自動で労働時間を算出し、簡単に工数入力を行えます。勤怠と工数の数値が整合するため、正確な情報を取得できます。
▼OutlookカレンダーやGoogleカレンダーを同一画面に映し、見比べながら入力できる機能
カレンダーとの連携機能では、スケジュールから工数を自動で割り当てることも可能です。
このように、なるべく工数入力が負担にならないような工夫が施されているため、日々の入力を習慣化することができ、より正確な工数情報を取得できます。
また取得した工数情報は、Salesforce(セールスフォース)を基盤とした分かりやすいダッシュボードで分析することができます。過去の工数実績を分析することで、新たなプロジェクトの見積もり精度を高めることができるでしょう。
おすすめ製品2.クラウドログ(CrowdLog)
※引用:クラウドログ公式サイト
特徴や主な機能 |
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初期費用 |
要相談 |
月額費用 |
要相談 |
ガントチャートやタスク管理といったプロジェクト管理機能が充実しているため、ボトムアップ法で見積もり精度を高めたいと考えている場合におすすめのシステムになっています。
プロジェクトの工数予実をリアルタイムに把握することができるので、都度見積もりの内容と照らし合わせながらプロジェクトを進めることができるようになります。
工数管理ツールにはほかにもさまざまな製品があります。選び方や自社に最適なツールが知りたい場合は以下の記事も参考にしてください。
【2024年】工数管理ツール13選比較|エクセルとの違いや選び方も解説
まとめ|工数の見積もり精度を上げるには、日頃から正しい工数を取得することも重要
工数の見積もり精度に課題がある場合、以下の手法を取ることでより正確な見積もりを作成することができます。
- プロジェクトのタスクを細分化して、各タスクの工数を見積もる
- 三点見積もり法や過去の実績を用いることで、バッファをもたせた見積もりを行う
- 普段から正確に工数管理を行い、過去実績を見積もりに活かせるようにする
- 作業時間以外の工数も含めて見積もる
- 工数見積もり作成者以外からフィードバックを得る
- 工数管理ツールを導入する
納得感のある見積もりが作れれば、クライアントからの信頼獲得にも繋がります。また会社としての信頼だけでなく、見積もり作成者個人の評価や信用にも直結するため、正確な工数を見積もることが大切です。
工数を見積もる方法は、プロジェクトの規模や形態、担当者のレベルなどによっても適切なものが変わってきます。
基本的には、どんな見積もり作成の場面にも役立つ「過去の工数の実績」を正確に管理することで、見積もりの精度を上げることを目指すとよいでしょう。
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