在宅ワークでも営業職は続けられる 〜家庭を主軸に協力し合い環境を変える共働き改革〜
会社の定めた在宅ワークの制度を活用している弊社社員Hさんを実例に、具体的に在宅ワークで営業職を行なうとはどういうことなのか? Hさんの1週間のスケジュールを見ながら紐解いて紹介する。
「男女共同参画白書」の平成30年版によると「平成9年以降は共働き世帯数が男性雇用者と無業の妻から成る世帯数を上回っている」とある。
ただ、共働きの姿はいくつか考えられるので、同資料の第一子出産前後に女性が就業を継続する割合も見てみよう。
以下のグラフには、「(第一子出産前後に女性が就業を継続する割合が)これまで4割前後で推移してきたが,最新の調査では約5割へと上昇した」との解説がついている。子育てと仕事を同時並行で行なう女性が徐々に増加している、というわけだ。
共働き世帯の増加の背景にはどんなことが挙げられるのか?2017年9月4日付けの日銀レビュー(「共働き世帯の増加の背景とその消費支出への影響」)では、次のように指摘されている。
「労働需給がタイト化するなかで、政府や企業の女性活躍促進への取り組みが奏功していることが挙げられる。もっとも、中年層を中心に、老後不安の高まりといった要因も、共働き世帯の増加に影響していることが示された」
これに加え、子育てや教育にかかるお金を心配する向きもあるだろう。
共働き世帯の増加の理由には複合的な要因があるだろうが、子育て(あるいは介護)と仕事を同時並行で行なう家庭は今後も増えていくことだろう。そうなった時、現状ではやはり女性の側に負担がかかりやすいことは想像に難くない。
web掲示板等ではそうした状況への苦悩や不満、やるせない思いを吐露するコメントも多い。
では、どのようにこの課題を解決すればいいのだろうか?
正解はひとつではないにせよ、成功例から新たな視点や発想を得て、次のアクションにつなげることはできるはずだ。
目次
チームスピリットの自由な働き方
「すべての人を、創造する人に。」をミッションに、仕事に関わる煩雑な事務作業をスマート化できるようにするツール「チームスピリット」を提供するチームスピリットは、自社内でもその機能を使って、より個々人に合わせた最良な働き方ができるよう社内の仕組みや就業ルールを柔軟にしてきた。
たとえば、2015年からチームスピリット代表の荻島が発起人となって進めている「CW1(クラウドワークワン)」もそんな制度のひとつだ。週のうち好きな日に1回、在宅勤務を推奨するというこの取り組み。働くひとそれぞれが自分自身でタイムマネジメントをする意識を高めたり、ライフステージに合わせた働き方を想像する機会にしたり、災害時などでもレジリエントは働き方ができるようにするための"訓練"といった側面もある。
今回はこのCW1を活用している弊社社員Hさんを実例に、具体的な内容を紹介する。
Hさんの場合、「在宅ワークをメインにした働き方を」と希望を出し、2年半ほど前から自宅を拠点にした働き方を続けている。CW1の拡大版、と考えることもできるだろう。
<Hさんのプロフィール>
l 家族構成:夫(某社にてフレックス勤務中)、子ども(3歳)
l 社歴:6年
うち、2年半が在宅ワークメインl 部署:サポート部門に配属。
半年育休の後、サポート部門に復帰(週1出社)。
その4ヶ月後に営業へl 現在の働き方:自宅が拠点。chatや電話で社内コミュニケーションしつつ、顧客への往訪を行なう。その際、会社の近くだったら出社することも。
家庭という生涯を通じて完成させるプロジェクトと、会社のプロジェクトを並行させるために
〜在宅ワークで営業職を続けるシンプルなtoDo〜
では、具体的に在宅ワークで営業職を行なうとはどういうことなのか? Hさんの1週間のスケジュールを見ながら紐解いてみよう。
このスケジュール表は、Hさんが管理者となって家族それぞれの動きを「見える化」しているものだ。これを夫と共有する理由として、次のようなことが挙げてくれた。
- スケジュールの整理
- 英語の保育園の送り迎え分担の確認
- もしもの時の心構えに活用
Hさんは在宅ワークをしているとは言え、営業職であるため取引先企業に往訪することも多い。そうした時に、子どもが急な発熱などによりお迎え要請がきてしまったとしよう。そうすると......?
一般的には、「取引先にリスケを頼んでお迎えに行く」となるだろう。だが、本来ならそれ以外の選択肢はあるはずだ。Hさんの家庭の場合「フレックス制を導入している夫が迎えに行く」が、この場合のオペレーションとなる。
また、夫婦が一緒に環境を整えることで諦めずにチャレンジできた、子どもを「英語の保育園に通わせること」を続ける上でもカレンダーによる情報共有は有用だ。
この保育園はそれ以外の曜日に通っているところとは違い、送り迎えが必要になる。「どちらが送り迎えをするか?」の分担を行ったり、もしもの時に「どちらの保育園にお迎えに行くか」をカレンダーで確認できる、というわけだ。
このほか、Hさん本人が他の2人のスケジュールを見ながら、「この日は家族でごはんを食べて、お風呂に入ったあとで事務作業をしよう」とか「この日はお迎えがあるから、往訪ではなくweb会議にしてもらおう」と、スケジュールを調整するためにも活用しているとのことだ。
最近の働き方と在宅ワークのコツについて、「社内とのやり取りはchatか電話がメインです。特に距離を感じたり、コミュニケーションが疎かになっている、と思うことはありません。chatですぐに話しかけられなくても、メッセージを残しながら『一旦退社』で登録しておけば今の状態を社内に知らせることができ、必要があれば再び出社すればOK*なので緊急時も問題ありません。
週・月単位でやるべきことは決まっているので、あとはそれにかかる時間の配分を自分自身でコントロールしつつ、情報共有はしっかりしていく。これが在宅ワークを進める上で重要なポイントだと思います」と、Hさんはまとめる。
実際にHさんの上席であるIさんも、「よく、在宅ワークが続くと仕事ぶりかわからず人事評価ができないから不安、という管理職の方の声を聞きますが、chatと電話があるので特に問題を感じません。また、心配な場合はこちらからコミュニケーションを取ればいいし、Hさんはきちんと答えてくれます。往訪先が会社に近ければ寄ってくれることもあるし、そのようにお願いすれば対面で話をする機会も作れます」とのことだ。
*「チムスピ勤怠」では、1日に複数の出退勤が可能なため、日中に私用で「一旦退社」し、再び出社することができる。チムスピ勤怠の詳細はこちら
在宅だから家事もしながら仕事もできる! わけじゃない!!
〜課題解決には自分たち以外の力に頼ることも重要〜
Hさんの在宅ワークはとても成功しているように見えるかもしれないが、出産→復帰→フルタイムでの就労について、不安がなかったわけでもないし、今でも手探りの部分はあるようだ。
「子どもを産んでからフルタイム勤務に復帰する際、自分はやっていけるのかな? と思う気持ちはありました。しかし、最近は完全に開き直って、実家も含めて頼れるところは頼ろうと思ってお願いしちゃっています!」と話すHさん。この言葉の裏には私たちの在宅ワーカーに対する先入観を解消してくれるきっかけが隠れている。
多くの場合、「在宅ワークだから、家事もしながら仕事もできるだろう」と思いがちかもしれないが、そういうわけではまったくない。
Hさんの場合は営業職なので、子どもが幼稚園にいる間に客先巡りをすることもあるのだ。また、他の在宅ワークをしているスタッフも、ある人は「サービスローンチなど重要な作業中は片時もPCから離れられない」と言うし、またある人は「サポートの仕事では、画面の前にお客様がいるのだから自分の都合で離席できないことも多い」と言う。
つまり、在宅ワークもオフィスで仕事をするのと同じように忙しいのだ。
そうなると、やはり買い物や掃除・洗濯などには手が回らなくなる。
この部分を外部にお願いすることは、在宅ワークであろうと、他の働き方であろうと、必要ならばためらうべきではないだろう。
最近はさまざまなサービスが展開されている。買い物関係のサービスには実店舗のスーパーがインターネット上に出現したネットスーパーがある。また、お店のできたてを宅配してくれるサービスもあり、子育て世帯はもちろん、単身のハードワーカーなどにも愛されるサービスと言えよう。さらには材料の下ごしらえを済ませたものを購入できるサービスもあり、調理時間の短縮や献立を考える煩わしさからも解放され、効率よく時間を活用できる。
エアコンや換気扇の洗浄、水周りの大掃除などを代行してくれるサービスを利用したことがある人は少なくないかもしれないが、もっと日常的なお掃除をお願いすることもできる。自宅の掃除で培った経験に加え、企業独自のノウハウを学んだプロフェッショナルたちの掃除の技は「自分でやるよりずっとキレイにしてくれる」と好評。また、お掃除だけでなく、洗濯やアイロンがけをお願いすることもできる。時間単位での契約の場合もあれば特定のサービスを組み合わせてお願いすることも可能だ。
サービスを選ぶポイントは「使ってみる」に尽きる。いろんな感想はあるかもしれないが、家庭それぞれに独自ルールや味付けがあるように、サービスの良し悪しの感じ方は人それぞれであることを忘れてはいけない。
はじめは、「こんなことをお願いしてもいいのかな?」と思うかもしれないが、自身や家庭にとって何を一番重要とするのかを改めて考え、「これはやりたいし、できるけど、プロにお願いした方が別のことに注力できる」というなら"外注"をためらわないようにしたい。
「在宅ワークはこういうもの」と決めつけない
〜いろいろ駆使して柔軟に〜
Hさんの家庭では、出産を機に、夫であるSさんも半年間の育休を一緒に取得したそうだ。だが、女性の方が利用する機会が多いとされる「育児休暇制度」。男性も利用を推進されているとはいえ、なかなか普及していないのが実情であり、Sさんの会社でも半年もの育休を男性が取得した前例はなかったと言う。
しかし、HさんとSさんの出来事以降、フレックス制が導入されるなど、働き方が変わってきたとのことだ。
Hさんは、「子育てと働くことを並行して行なう際、『夫も協力して』というふうに言うことがあります。しかし、『協力』という時点で平等に子育てと働くことを担っている、とは言えないように感じます。子育てに対して、女性がメインで夫は"手伝う"という意識ではなく、一緒に子育てができる環境を作っていくためにはどうすればいいのか? と考える発想や意識の切り替えが必要だと思います」と、想いを語ってくれた。
確かに、家庭と仕事を同時並行で進めるプレイヤーは夫婦どちらともの仕事であるはずだし、そのために環境を変えるべきは家庭ではなく仕事の方なはずだ。だから、一緒に「どうしていくか」を仮説立て、理想に近い取り組みを実践しつつ、改善を続けることが求められよう。
もちろん、仕事場や仕事のスタイル等は変えられない部分もある。すべてを「こうすべし」とするのではなく、少しずつ、変えられるところは変え、頼れるサービス等は頼り、柔軟に進めていくことが成功のヒケツになるだろう。
こうした先例は、子育て世帯だけでなく、介護世帯や単身世帯の働き方を改善することにも繋がるかもしれない。
汎用的な「このやり方がベスト」という答えは見つかりづらいかもしれないが、それに近付く努力をすることがなにより重要なのだろう。それこそが「働き方改革」の取り組みになるはずだ。