1. そもそも割増賃金とは?割増賃金の具体的な計算の前にそもそも割増賃金とはどのようなものか、その定義や種類、割増賃金の計算に必要な割増賃金率(割増率)について、それぞれ具体的に解説します。割増賃金の定義割増賃金(わりましちんぎん)とは、残業(時間外労働)、深夜労働、休日労働などをした際に、労働者に対して働いた分の基礎時給だけではなく、そこに一定割合を増額して支払う賃金のことです。残業、深夜・休日労働ごとの割増賃金率割増賃金には、時間帯や休日出勤などに応じて3つの種類があります。3種ごとに基礎賃金に掛けて計算する割増賃金率もそれぞれ以下のように異なります。種類支払う条件割増率時間外(時間外手当・残業手当)法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき25%以上時間外労働が限度時間(1カ月45時間、年360時間等)を超えたとき25%以上(※1)時間外労働が1カ月60時間を超えたとき(※2)50%以上(※2)休日(休日手当)法定休日(週1日)に勤務させたとき35%以上深夜(深夜手当)22時から5時までの間に勤務させたとき25%以上(※1)25%を超える率とするよう努めることが必要です。(※2)中小企業については、2023年4月1日から適用となります。出典(PDF資料):東京労働局|しっかりマスター労働基準法 ー割増賃金編ー①「1時間あたりの賃金額」の求め方を確認残業代の計算式「1時間あたりの賃金額×残業時間×割増賃金率」時間外労働をした際に発生する残業手当(時間外労働手当)は1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて従業員を働かせた際に発生する割増賃金です。割増賃金は法定労働時間を超えた際に発生するため、所定労働時間が7時間で1時間残業をした、という場合1日の労働時間が法定労働時間の範囲で収まり、割増賃金の支払う必要はありません。中小企業については2023年4月1日から月60時間を超える残業の割増賃金率が引き上げられるので、以降の割増賃金の計算方法の変更などの対応が必要になります。【関連記事】月60時間残業は違法?違法となるケースや法改正後の割増賃金率の引き上げまで解説時間外労働・休日労働が深夜におよんだ時の割増賃金率義時間外労働・休日労働が深夜におよんだ場合、深夜手当の分を足した割増賃金率で計算する必要があります。なお労働基準法上の深夜時間とは、22時から午前5時までの時間帯です。深夜労働があった場合の割増賃金率深夜労働 ...25%以上時間外労働 ...通常は25%以上、深夜時間帯の時間外労働の場合... 50%以上(25%+25%)休日労働 ...通常は35%以上 、休日の深夜時間帯の場合....60%以上(35%+25%)2. 割増賃金の計算方法と手順割増賃金は、以下の計算式で求めることができます。この計算に必要な「基礎賃金」は、時給制の場合はそのまま時給額で計算します。月給制などの支払い形態の場合1日あたりの基礎賃金の額を算出します。①1時間あたりの基礎賃金を求める計算式を確認1時間当たりの基礎賃金とは、割増賃金の基礎となる賃金です。これに割増賃金率と残業した時間を掛けて割増賃金を算出します。深夜・休日労働の割増賃金を計算する場合にもこの1時間当たりの基礎賃金の額をもとにした計算が必要です。「1時間あたりの賃金額」を算出する計算式1時間あたりの賃金額 = 月の基礎賃金 ÷ 1カ月の平均所定労働時間②月の基礎賃金に含める手当と除外する手当を確認残業代の基礎賃金は、基本給以外にも従業員に支払っている諸手当が含まれています。ただし、法律上、残業代の対象から控除することが認められている手当があり、それが以下になります。家族手当通勤手当別居手当子女教育手当住宅手当臨時に支払われた賃金(結婚手当、出産手当、大入り袋など)1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金 など皆勤手当てなど、従業員個人の事情に応じて支払われるものは基礎賃金に含め、それ以外は除外されます。「住宅手当」は、全員に一律に定額で支給されるなど、住宅に要する費用に応じて算定されるわけではないので基礎賃金には含まれません。③1カ月の平均所定労働時間の確認1日の基礎賃金の額を算出するには、1カ月の平均所定労働時間を求める必要があります。月給制、日給制の場合どのように1カ月の平均所定労働時間を求めればよいか確認しましょう。月給制の場合毎月の所定労働時間数が具体的に定められているのであれば、その時間を1カ月の平均所定労働時間とします。そうでない場合は以下の計算式を用います。1カ月の平均所定労働時間=1年間の所定労働日数(1年間の総日数・365日 ー 1年間の所定休日数)×1日の所定労働時間÷12日給制の場合 日給制の場合、割増賃金計算の基礎となる所定労働時間は1カ月の平均ではないため、注意が必要です。計算の基準になるのは1日の所定労働時間になるため、まず1日の所定労働時間を求めます。1日ごとの所定労働時間数が就業規則で定められており、毎日同じ労働時間の場合はそれを所定労働時間として計算します。しかし、日によって労働時間が違う、という場合は1週間の所定労総時間を次の計算式で求めましょう。日給制の1日の所定労働時間の求め方(日によって異なる場合)1日の所定労働時間= 1週間の合計所定労働時間 ÷ 1週間の所定労働日数参考:e-gov:労働基準法施行規則 十九条二号日給制の場合、割増賃金を算出する場合は、日給を上記で出した1日の所定労働時間で割って、1時間あたりの基礎賃金(時給)を算出し、残業した分の時間をかけます。日給:14,000円所定労働時間:8時間残業した時間:2時間14,000円÷8時間=1,750円1時間あたりの賃金1,750円×2時間=3,500円月給制の場合とは基礎賃金の求め方が異なるため、留意しておきましょう。3.割増賃金の計算例1日当たりの基礎賃金と、1カ月の平均所定労働時間の求め方を確認したところで、具体例をもとに実際に割増賃金を計算してみましょう。正社員で働くAさんと、時給制で給与が支払われているパートタイマーの従業員Bさんの例をもとに解説します。月給制の従業員の場合正社員のAさんの例です。<正社員Aさんの1時間当たりの基礎賃金>基本給:月額300,000円 諸手当:通勤手当10,000円 皆勤手当2,000円1日の所定労働時間数:8時間年間所定休日:122日皆勤手当は除外されないため基礎賃金は、300,000円+2,000円=302,000円 となります。(①)1カ月の平均所定労働時間は1年間の所定労働日数(365-122日)×1日の所定労働時間(8時間)÷12=162時間 です。(②)①②で算出した数値を基に計算すると、1時間あたりの基礎賃金額は302,000円÷162=1,864円 であることが分かります。Aさんが、ある日の平日深夜0時まで残業した場合Aさんが平日深夜0時まで残業をしたときの例をもとに、割増賃金を算出してみます。Aさんの1時間あたりの基礎賃金:1,864円所定労働時間:8時間22時までの時間外労働の時間:2時間深夜労働の時間:2時間計算式1時間あたりの基礎賃金:1,864円×1.25×時間外労働2時間=4,660円1時間あたりの基礎賃金:1,864円×1.5×深夜労働2時間=5,652円4,660円+5,652円=10,312円時給制のパート従業員の場合時給制で働き、残業をすることもあるパート従業員のBさんの例です。<パート従業員Bさんの1時間当たりの基礎賃金>Bさんは時給1,200円の時給制です。この場合、この時給額が時給制のそのまま割増賃金の基礎となる1時間あたりの基礎賃金に該当します。Bさんが、ある日の平日21時まで残業した場合Bさんが平日21時まで残業をしたときの例をもとに、割増賃金を算出してみます。Bさんの1時間あたりの基礎賃金:1,200円所定労働時間:7時間(17時まで)法定労働時間内の残業:1時間時間外労働の時間:3時間この場合、法定時間内に収まる1時間の残業に割増賃金は発生しないため、今回の計算からは省きます。割増賃金を求める計算式は以下のとおりです。1時間あたりの基礎賃金:1,200円×1.25×時間外労働3時間= 4,500円4. 割増賃金の支払いや計算に関するよくある質問割増賃金の支払いや計算をする際に疑問となりやすい、よくある質問についてそれぞれ一問一答形式で回答します。割増賃金を支払わなかったらどうなりますか?発生した分の割増賃金を支払わなかった場合、労働基準法違反になり、6カ月以上の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、割増賃金を支払っていないというだけでなく、」36協定を結ばないで残業や休日労働をさせていた場合も法違反です。残業手当の定額払いはいけないのですか?定額で支払うことは可能ですが、次のような条件があります。実際に発生した残業時間に基づいて計算した残業手当以上の額を定額で支払っている定額で支払っている残業手当の内訳を明示する定額より実際の割増賃金の額が上回っている場合は、その差額を支払う年俸制でも割増賃金の支払いは必要ですか?賃金の支払形態によって割増賃金の支払いが免除されるという規定はありません。年俸制であっても時間外労働や深夜労働、休日労働に対し割増賃金を計算した分の残業代の支払いは必要です。割増賃金(残業代)の1円以下の端数は切り捨てていいのですか?1時間あたりの賃金額及び割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げて計算してください。割増賃金は1分単位で計算しなければならないのですか?1日の労働時間は1分単位で計算する必要があり、時間外労働をした分も同様です。1日の時間外労働時間が1時間以下の端数であっても1分単位で計算し、割増賃金をかけて残業代を算出する必要があります。例えば、その日に1時間15分残業した場合、1時間分だけでなく15分の時間も踏まえて残業代も計算しなければならず、15分の切り捨ては許されません。ただし、1日ではなく、1カ月単位の割増賃金を計算する場合、給与計算の効率化の観点から30分未満の端数であれば切り捨ててよいとされています。1カ月単位あっても時間外労働の30分以上あった場合は切り上げて計算することも可能です。管理職には割増賃金を支払わなくてよいのですか?労働基準法上の「管理・監督者」に当たる管理職に対しては、深夜勤務手当・年休を除いては割増賃金を支払う必要はありません。ただし、課長、係長あるいは主任などの中間管理職については、法律上の管理・監督者に該当しない場合があります。「管理・監督者」に該当するかどうかは、以下の各要素を総合的に考慮した判断が必要です。①経営者と一体的立場にあるといえるだけの職務内容、責任を有するか②自己の労働時間をその裁量で管理できるか③その地位にふさわしい賃金等の待遇を受けるか参考(PDF資料):東京労働局|しっかりマスター労働基準法 ー割増賃金編ー割増賃金の未払いが発生しないか心配です。どんなことに気を付ければよいですか?割増賃金の未払いを防ぐには、まずは自社の労働時間を正確に把握することが重要です。タイムカードやExcelの場合、割増賃金の計算で人的ミスが起きやすくなります。勤怠管理システムを活用すれば各従業員の労働時間を正確に把握でき、時間外労働、深夜労働、休日労働の時間の割増分の計算にも対応できます。2023年4月1日以降は、これまで大企業だけに適用されていた「月残業が60時間以上になった場合、割増賃金率が引き上げられる」という措置が中小企業にも導入されます。これを機に割増賃金の未払い防止と、法令順守の対策を進めたいという企業は、この法改正に対応した勤怠管理システムを導入するとよいでしょう。5.まとめ割増賃金は、従業員に法定労働時間を超えて労働させた時や、法定休日に労働させた時に発生します。実際に発生した割増賃金を求めるには、基準となる1時間あたりの基礎賃金に時間外、深夜、休日ごとに決まっている割増賃金率をかけて算出します。割増賃金の計算は煩雑になりがちですが、発生した額を満額従業員に支払わなければ法違反となります。2023年4月からは、中小企業を対象に月60時間を超えた残業をさせた場合の割増賃金率が引き上げられ、法改正への対応が必須の企業も多いでしょう。法改正を前に、自社の割増賃金の計算と残業代の扱いを効率化させる施策の導入が求められます。6.残業の管理を効率化するには時間外労働時間や残業代の集計・管理は煩雑になりがちで、毎月の締め作業が負担の企業も多いでしょう。クラウド勤怠・工数管理ソフト「チームスピリット」を使えば、時間外労働や休日・深夜の労働時間等を自動で集計することができ、効率化が進みます。また、残業を行う場合には申請を必須とする設定も可能なため、残業の必要性の判断や無用な残業の防止に役立てることも可能です。このほかにも、従業員ごとや部署ごとなど、さまざまな切り口で残業時間をグラフ化して可視化する機能や、特定の残業時間を超えた場合にアラートを通知する機能など長時間労働を是正する機能を多数搭載しています。少しでも「チームスピリット」に興味を持たれた方はぜひ資料請求やお問い合わせください。執筆:バックオフィスナビ編集部・@人事共同執筆