【人的資本と人的資源との違い】企業価値との関連性を解説!
著者:チームスピリット編集部
企業の成長を促す手法のひとつに生産性を高める投資があります。既存の設備、ソリューションの見直しや、積極的な投資によって個人個人の業務効率を向上させれば、企業全体の生産性向上につながります。また、従業員も人的資源や人的資本と呼ぶため、投資対象のひとつです。 今回は人的資源と人的資本の特徴や違いを紹介します。あわせて人的資本が重視される理由を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
人的資源と人的資本の違いを知る
人材へ効果的な投資を行い、企業成長を促すためには、まず人的資源と人的資本の違いを理解することが重要です。この項目では、それぞれの特徴を解説します。
人的資本とは
人的資本とは、人材を企業の資本のひとつとする考え方のことです。人的資本の価値を最大化するためには、相応の投資が欠かせません。人的資本の考え方は、人材を投資対象としてとらえ、価値を向上させることで活躍を促し、やがて企業価値向上につなげることが目的です。
個々人が生来より育んできた才能や能力に加えて、研修などで得た知識やスキルなども従業員の資産価値をはかる要素に含まれます。
また、人的資本は前述の能力や知識などがどのように企業価値向上へつながるのかという視点でもあります。
関連記事:「人的資本とは何か。注目される背景や人的資本を高める方法を解説」
人的資源とは
人的資源とは、もともと備わっているものです。人材に限らずモノ、カネ、情報なども含み、いずれも企業が消費していくものである点が共通しています。あくまで資源として捉えているため、消費すればするほど減っていくものです。
人的資本が人材を投資対象として、将来的にも価値を生み出すものと考えているのに対して、人的資源は消費する時点の価値のみを見ているのが特徴です。
人的資本と人的資源の大きな違い
投資して育てていくものと考えられている人的資本との大きな違いは、人的資源にかけられる費用はコストに分類されることです。かつては人材を人的資源と考えることが一般的でしたが、近年は人的資本として、相応の費用や時間をかけて育てていくべきものと認識されつつあります。
人材がもつ能力を一方的に消費するものではなく、将来的により多くの価値を生み出すものとして捉えて投資していくことが、今後の企業価値向上につながります。
人的資源より人的資本に関心が向いている理由
多くの企業で、人材を人的資源とする考え方から、人的資本と見る考え方にシフトしています。経験を積み、研修などで知識やスキルを磨いていくことで、将来的な生産性や企業価値を向上させる人材資本は重要な存在です。
業種問わず多くの企業が人的資本を重要視している理由は、主に3つあげられます。
無形資産への関心が向上
投資家など各企業のステークホルダーは、ESG投資やSDGsの浸透によって、財務情報などの有形資産よりも無形資産へ関心を寄せています。ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスの3分野への積極的な取り組みを行っている企業へ投資する手法のことです 。
人的資本の考え方は、ESGのうち「社会」にあてはまり、無形資産として企業価値に大きな影響を与えています。米国企業を見ても、1990年代ごろから無形資産への投資額のほうが高い傾向です。
日本国内においても、証券市場を起点とした人的資本の情報開示が求められつつあります。人的資本への投資実績や取り組みへの姿勢が開示されることで、企業の成長力向上やステークホルダー間での信頼性の向上が期待されているためです。
多様性のある人材や働き方の増加
現代は世界的に多くの分野で多様性が受け入れられており、人材や働き方においても例外ではありません。
従来は新卒一括採用や終身雇用が主流でしたが、フリーランスや非正規雇用、副業、兼業など、さまざまな働き方が見られます。人材も、グローバル化や女性進出などの影響もあり、多様化が進んでいます。
個人を尊重しつつ能力を企業の成長に活かすためには、人的資源ではなく、人的資本の考え方が重要です。細分化した人材や働き方へ適用するための観点からも、多くの企業が人的資本に注目しています。
人材版伊藤レポートの公開
2020年9月、経済産業省より「人材版伊藤レポート」が公開されました。人材版伊藤レポートとは、「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の報告書のことです。伊藤レポートの名は、座長を務めた大学教授にちなんで名付けられました。
コーポレートガバナンス、持続的企業価値創造、投資家目線と3つの文脈を意識した構成となっており、第1章「人材戦略の変革の方向性」で人的資本にも触れられています。
企業経営における人材戦略が変革を迫られていることについて、従来と今後の観点から解説する内容です。人材を従来の資源から資本とする考え方に変え、人的資本の価値の創出によって企業価値の向上を目指すことの重要性などを説いています。
人材版伊藤レポートは、大企業や上場企業を想定した内容です。しかし、実際は、規模を問わず多くの企業が人材戦略について考えるきっかけとなりました。
企業が人的資本の価値を向上させるには
今後、企業が人的資本の価値を向上させるためには、採用や教育など人事にまつわる取り組みを人材戦略として重視する必要があります。
具体的にどのような戦略や行動が人的資本ひいては企業の価値を向上させるのか、ここでは3つの方法を紹介します。
人材版伊藤レポートの「3P・5Fモデル」に取り組む
人材版伊藤レポートでは、以下にあげる3つの視点と5つの共通要素に注目する取り組み方「3P・5Fモデル」が提唱されています。
3つの視点 | ・経営戦略と人材戦略の連動
・As is - To beギャップの定量把握 ・企業文化への定着 |
5つの共通要素 | ・動的な人材ポートフォリオ
・知・経験のダイバーシティ&インクルージョン ・リスキル・学び直し ・従業員エンゲージメント ・時間と場所にとらわれない働き方 |
引用:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会
報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf
たとえば「経営戦略と人材戦略の連動」として、経営戦略やビジネスモデルを見直すときは、実現を支えるための人材戦略も連動して見直す必要があると考えられています。
ほかにもAs is - To beギャップ(「現状(As is)」と「理想(To be)」の間に生じるギャップ)を明確な数値で把握することの重要性などがあげられます。
明確な数値による把握は人材戦略の指標となるだけではなく、ステークホルダーへ取り組みの効果を開示するうえでも役立つ手法です。
また、人材戦略を立案するときは5つの共通要素も重視すべきポイントです。従業員のパフォーマンスを最大化できる環境を、学び直しや多様性のある働き方など、さまざまな観点から検討、実現することが現代の企業に求められています。
人材戦略の効果測定を行う
人的資本にもとづいた人材戦略および経営戦略は、ひとまず取り組めば良いというものでもありません。実践した内容に対して定期的な効果測定を行い、適宜見直していくことも大切です。
教育や育成を行うときは、企業価値の向上につながるKPIをあらかじめ設定し、効果が出ているか客観的に評価します。人的資本の情報を社内外で正しく開示、共有し、改善していくことで、従業員のエンゲージメント向上につなげることも重要です。
取り組みに対する効果測定とフィードバックは、従業員の満足度にもつながります。働きやすい環境づくりに反映できれば、人的資本の価値向上に大いに貢献します。
人事関連業務を効率化する
人事関連業務を効率化させることも、人的資本の価値を上げやすくするコツです。タレントマネジメントシステムなどのHRシステムを導入すれば、効率的かつ正確に従業員一人ひとりを管理できます。
人材管理が個人単位で的確にできるようになると、それぞれ適した育成や研修を設定することが可能です。評価もしやすくなり、モチベーションや人的資本の価値をより高めてくれます。
関連記事:「人的資本経営とは?重要視される背景や経営戦略のポイント」
まとめ
企業価値の創造や生産性向上を狙うなら、人的資本への投資が欠かせません。従来は人材を人的資源と考え、給料や教育費など発生する支出をコストとして考えるのが主流でした。しかし近年は人材を投資する対象のひとつとして捉える、人的資本とする考え方が広まりつつあります。
人的資本の価値を高めれば、現場の生産性向上だけではなく、企業の経営戦略などにも好ましい影響が期待できます。
生産性向上を狙うのであれば、まずは人的資本と人的資源の違いを正しく理解したうえで、現状に適した人材の使用や設備の配置を考えることが大切です。
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