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未払い残業代を請求された!在職中・退職後2パターンの対応をそれぞれ解説

著者:チームスピリット編集部

未払い残業代を突然請求されて、対応に困っている企業担当者は多いのではないでしょうか。

未払い残業代は、本来であれば割増賃金の支払いが必要なところを通常の賃金で支給したり、残業時間を無かったものとして賃金を支給しなかったりすることをいいます。

未払い残業代が裁判などに発展すると、未払い残業代のほか遅滞損害金や付加金の支払いが必要になる場合もあります。

本記事では、未払い残業代の支払いが必要なケース、請求が認められなかった事例、対応と予防策について解説します。

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未払い残業代とは?

未払い残業代とは、法律上では割増賃金で支払う義務があるにもかかわらず未払いとなっている賃金のことをいいます。

本来、労働者が残業(時間外労働)をした場合には、残業時間分について少なくとも25%を割り増した賃金を支払う必要があります。

こうした割増賃金の未払いは「労働基準法違反」となり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される恐れがあります。

未払い残業代を請求できる時効は3年(※)となっているため、残業代の未払いがあった場合、「そこから3年間は請求される可能性がある」ということになります。

※法律では5年と定められていますが、未期限の猶予措置として3年とされています。

労働基準監督署の監督指導により是正された未払い残業代のデータを見ると、2021年度に支払われた割増賃金の合計額は65億781万円で、かなり多くの未払い残業代が是正により支払われていることが分かります。

ちなみに、割増賃金の平均額は1企業あたり609万円、労働者1人あたり10万円となっています。

※参考:監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)|厚生労働省

未払い残業トラブルが裁判に発展すると、遅滞損害金や未払い残業代と同額の付加金の支払いが必要になる場合があるため、注意が必要です。

正当な未払い残業代の請求を受けたら支払わなければならない

未払い残業代の請求を受けた場合、その請求が正当なものであれば企業は支払わなければなりません

もともと、未払い残業代の支払いに関係する法律として、

  • ①労働の対価である賃金は全額を支払わなければならないこと(労働基準法第24条)
  • ②労働時間を延長して働いたときや休日に働いたときは割増賃金を支払わなければならないこと(労働基準法第37条)

が定められています。

請求者が在職中であれば、原則として本来の残業代が発生した年度の所得税・社会保険料・労働保険料・会社の損金について再計算し、修正や清算が必要となります。退職者からの請求であっても、時効の期間内であれば対応が必要になります。

未払い残業代の支払いが後から見つかった場合には、労働者・企業・行政への影響が多く手間も非常に多くかかります。そのため、いかにして未払い残業代の発生を防止するかがとても重要です。

未払い残業が発生しやすい4つのよくあるケース

本章では未払い残業代の請求が認められ、企業が支払うことになるケースを4つ紹介します。

未払い残業代の請求が認められるよくある4ケース

  • よくある事例:管理職(管理監督者)の要件を満たしていない
  • よくある事例:年棒制・歩合給制で残業代払っていない
  • よくある事例:みなし労働時間制・裁量労働制なので残業代払っていない
  • よくある事例:給与計算時の割賃計算が間違っている

よくある事例1:管理職(管理監督者)の要件を満たしていない

労働基準法において、管理職(管理監督者)は、残業と休日労働の割増賃金規定を適用しなくて良いものとされています。そのため、管理職であれば残業代は一切支給しなくていいと誤解しているケースが多くあります。

しかし実際には、管理職であっても、実態として管理職の待遇でない場合は、通常の労働者と同様に残業代の支払いが必要となります。

管理職であるか否か(残業代の支払いが必要かどうか)は、裁判のなかで個別に判断されますが、これまでの判例などから管理職の要件として次の事項が挙げられます。

責任と権限 自らの裁量で行使できる権限が多くあり、経営者と一体的な立場にあること
経営方針の決定 経営会議に出席するなど経営方針の決定に関与していること
ふさわしい待遇 主に賃金について一般の労働者と比べて管理職にふさわしい待遇であること
勤怠管理 勤怠について自らの裁量が認められており厳格な管理をされていないこと

自社の管理職が上記の要件を欠いていないか、不安がある場合は管理職の待遇を見直しましょう。また、管理職であっても、深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要です。

よくある事例2:年棒制・歩合給制で残業代を払っていない

年棒制や歩合給制であっても、残業した時間分についてはそれに応じた賃金の支払いが必要です。それぞれ次のようにして残業単価の基礎となる時給を算出します。

年棒制の場合

年棒給÷年間の労働日数÷1日の労働時間

歩合給制の場合

歩合給÷月の総労働時間

時給を算出した後は、適切な割増率を乗じて残業代を支払います。

よくある事例3:みなし労働時間制・裁量労働制なので残業代を払っていない

みなし労働時間制・裁量労働制のため残業代を支払わなかったが、後から未払い残業を請求され、企業が支払いを命じられることがあります。

未払い残業代が発生するみなし労働時間制の例としては、次のパターンが挙げられます。

  • みなし労働時間を8時間を超えて設定している
  • みなし労働時間制の運用を誤っている

1日の労働時間を所定の時間働いたものとみなす制度のことを「みなし労働時間制」と言います。みなし労働時間を8時間とすると、実際には6時間働いたとしても10時間働いたとしても「8時間」の労働をしたものとみなされます。

似た労働時間制度に「裁量労働制」があり、前もって企業と従業員間で定めた「みなし労働時間分」を労働時間とみなします。裁量労働制もみなし労働時間制の1つに分類されます。

労働者が不利になる制度運用がされないよう、みなし労働時間制の採用には職種が限定されていたり労使協定の締結が必要であったりとハードルが設けられています

本来であればみなし労働時間制を採用できない状況なのに制度を採用してしまった、などの間違った運用をしてしまうと、無自覚のまま未払い残業が発生するので注意しましょう。

みなし労働時間制・裁量労働制の適切な運用や割増賃金の具体的な計算例について詳しく知りたい方は、「裁量労働制とは?適用できる職種・デメリット・最新の法改正の内容も解説 | 基礎知識」もご覧ください。

よくある事例4:給与計算時の割賃計算が間違っている

給与計算時の間違いや誤解も、未払い残業代の要因として挙げられます。特に多いのは、週の法定労働時間40時間を超えた時間分について割増賃金を支払わないケースです。

たとえば、月曜日から金曜日まで8時間労働し、土曜日は3時間だけ労働した場合、土曜日の3時間労働については週の法定労働時間40時間を超えているため、割増賃金での支払いが必要となります。

支払うべき割増賃金を支給していなかった場合には、当然ながら「未払い残業」となってしまいますので、正しい認識の上で正確に給与計算できるようにしなければなりません。

残業代の計算方法については下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考になさってください。

残業代の計算方法|時間外労働の集計・割増率・法律を初心者向けに解説

未払い残業代を請求されたが支払わない結論に至った事例(レアケース)

本章では、逆に、労働者からの未払い残業代請求がされたものの、未払い残業代はないと判断された「日本ケミカル事件」の事例を紹介します。

裁判名 日本ケミカル事件(平成30.7.19最一小判)
経緯 薬剤師Xが勤務していたY社は固定残業代を「業務手当」としてXに支払っていた。Xはこの業務手当がみなし時間外手当の要件を満たさないから無効であると主張し、残業などに対する未払い賃金の支払いをY社に求めた。
結論 Xの業務手当は「残業などに対する対価」として位置づけられており、業務手当の額が実際の残業などの労働と大きく乖離するものではなかった。そのため、Xの業務手当は「残業などに対する対価」として認められる。

この事例のポイントは、このケースにおいて、業務手当(固定残業代)が「残業代に相当する対価」として認められたという点です。

つまり、実際の残業時間と比較して適切な固定残業代を支払っていたので、未払い残業代の支払いは不必要だと判断されました。

このような「未払い残業請求に対する企業の支払額が0円だった」という事例は少ないですが、存在はしています。ほかにも、「労働者が未払い残業代の根拠としたタイムカードに誤りがあった」ため請求を認めなかった、という事例もあります。

※参考:「割増賃金不払い」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|厚生労働省

繰り返しになりますが、未払い残業代の裁判において企業が勝訴して支払いが無かったというのはレアケースです。先述の未払い残業が発生しやすいケースとあわせて確認して発生を防ぐことが重要です。

未払い残業代の請求を受けた場合の適切な対処例(在職中・退職済み)

本章では、未払い残業代の請求を受けた場合の対応例を、

(1)労働者が在職中

(2)労働者が退職済み

以上の2つにわけて解説します。どちらも実態を調査したうえで未払い残業代を計算するところは同じですが、支給方法によって清算の手間が変わってきます。

(1)労働者が在職中の場合

未払い残業代の請求があった場合、ほとんどのケースでは支払うことになります。労働者が在職中の場合は次の流れで対応すると良いでしょう。

1.実態を調査する

まずは請求の内容が正当なものであるか、請求者の就労状況や賃金台帳を確認しましょう。請求者の主張に誤りがある場合や、企業が残業を禁止していた場合、相応の手当を支払っていた場合には、減額できる可能性があります。

2.未払い残業代を計算する

未払いであった残業が特定できたらその残業時間分の残業代を計算します。在職中であれば遅滞損害金として「未払い残業代の3%」を加算します。

3.支給する

原則は、本来支払うべきであった年度の残業代として支給します。ただし、そうすると所得税・各保険料の清算が煩雑となり請求者本人の手間も多いことから、例外として請求者の同意を得たうえで賞与とする取り扱いもあります。

4.所得税・各保険料などの再計算、清算を行う

原則どおりの残業代として支給した場合は、下記の通り再計算、申告、清算をおこないます。

所得税 未払い残業が発生した年度分の年末調整を再度おこなう。個人で確定申告をしている場合は確定申告の修正をおこなう。住民税も再計算となるので請求者の市区町村に給与支払報告書を送付する
社会保険料 未払い残業が発生した月の報酬として、必要があれば定時決定や月額変更の訂正届を提出する
労働保険料 未払い残業が発生した年度分の賃金に含め、労働保険料の修正をおこなう

一方で、請求者の同意を得て賞与として支給した場合は、下記の通りです。

所得税 支給した年度の給与収入として取り扱い、支給額から所得税の計算と徴収をおこなう
社会保険料 支給した月において、支給額から社会保険料の徴収と賞与支払届の提出をおこなう
労働保険料 支給した月の賃金に含めて次の年度更新をおこなう。請求者が雇用保険の被保険者である場合は支給額から雇用保険料を徴収する

賞与として支給する方が、企業側の工数的な負担は少なくなります。可能であれば請求者へ誠実な対応を心がけ同意を得たうえで、賞与の取り扱いで支給できるとよいでしょう。

(2)労働者が退職済みの場合

労働者が退職済みの場合は、支払う未払い残業代をどういう取り扱いにするかがポイントとなります。退職済みの場合は次の順序で対応します。

1.実態を調査する

最初のステップは在職中の場合と同じです。まずは請求の内容が正当なものであるか、請求者の就労状況や賃金台帳を確認しましょう。

労働関係の書類は5年間(当分の間は3年間)の保存期間が定められています。退職したからといって出勤簿や賃金台帳など労働関係書類を3年以内に破棄しないようにしましょう。

2.未払い残業代を計算する

未払いであった残業が特定できたらその残業時間分の残業代を計算します。退職済みであれば遅滞損害金として「未払い残業代の14.6%」を加算します。

3.支給する

退職済みの請求者である場合、残業代として支給するほか、相当の金額を以て「和解」とする方法があります。

支給パターン1)残業代として支給する

残業代として支給する場合は、「4.所得税・各保険料などの再計算、清算を行う」の原則処理と同様に、未払い残業が発生した年度の所得税・社会保険料・労働保険料を再計算・修正・申告します。

支給パターン2)和解金もしくは解決金として支給する

裁判に発展する前に、相当額の金銭を支払うことで請求者が未払い残業代の賃金債権を放棄することがあります。これを和解といいます。

退職済みの人から未払い残業代請求を受けた場合には、和解金や解決金といった方法をとることで、各税金・保険料の煩雑な処理を抑えられる可能性があります。

ただし、和解金・解決金であっても実質的に未払い残業代に相当するとみなされた部分については給与所得となり、請求者は課税されることがあります。

うっかり未払い残業代の発生を防ぐための方法

未払い残業代の発生を防ぐためにも下記の事項について確認し、該当する場合は対策を講ずるようにしましょう。

チェック項目 当てはまった場合の対策
労働時間計算の丸め処理をしている 労働時間の計算ルールを確認する(原則、労働時間は1分単位で計算が必要)
年俸制・歩合給制の労働者に残業代を支払っていない 勤怠管理を適切におこなって労働状況を把握し、残業が発生した場合は残業代を支払う
固定残業代以外の残業代を支払っていない 固定残業代分を超えて残業した場合は残業代を支払う
管理職に残業代を支払わない 管理職の要件を満たしているか確認する、要件を満たしていない場合は残業代を支払う
みなし労働時間制(裁量労働制)労働者に残業代を支払わない みなし労働時間制(裁量労働制)を正しく運用する
勤怠管理や勤怠記録の信頼性が低い 勤怠計算のルールを把握し、客観的かつ実態に即した記録をおこなう

勤怠計算の方法や残業時間の集計方法については、「勤怠計算を正確に行うには?勤務時間や残業時間の集計方法も解説」で詳しく解説しています。勤怠計算について確認したい方はぜひご覧ください。

まとめ|未払い残業は発生を防ぐことが重要

未払い残業代の請求を受けて、その請求が認められなかった(企業側の支払いがなかった)というケースはごくわずかです。多くの場合、未払い残業代の請求を受けた企業は支払うこととなります。

未払い残業代を支給することになると、各税金・保険料清算の手間もかかるほか、3%もしくは14.6%の遅滞損害金、最大で未払い残業代と同額の付加金の支払いが必要となることもあります。

このように、未払い残業代請求は請求者もですが企業側の負担が非常に多く、まずは未払い残業の発生を防ぐことが非常に重要です。勤怠計算のルールや労働時間に関する制度について把握しておき、トラブルを未然に防ぎましょう。

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