フレックスタイム制導入前に押さえたい制度概要と注意点
著者:チームスピリット編集部
新型コロナウイルス感染症によってテレワークがニューノーマルの1つになるなど、社会における働き方は大きく変化しています。そうした時代においてより多くの企業が注視しているのが、フレキシブルな働き方を実践できる「フレックスタイム制」という勤務形態です。それぞれの労働者の裁量によって働く時間やタイミングを決められる、非常に融通の利くワークスタイルだと言えます。フレックスタイム制はテレワークとの親和性が高いだけに、ワークスタイルが多様化している現代において脚光を浴びているのも必然の流れなのかもしれません。
労働者が働き方を選べるようになってきた一方、使用者はそうした新しい時代の流れへの適応が求められます。ワークスタイルの多様化は労務管理の複雑化を意味しており、企業としても労働者の働き方に合わせた適切な管理体制を構築することが不可欠です。しかし、急な方針転換は現場に混乱を招くことも予想されるだけに、判断に迷っている企業も多いでしょう。今回はフレックスタイム制を導入するうえで注意すべきポイントや、具体的な取り組み内容も含めて詳しく解説します。
フレキシブルな働き方を実現する「フレックスタイム制」とは
フレックスタイム制とは、一定期間で事前に定めた総労働時間の範囲内で、労働者自らが決めた始業時間や終業時間で裁量のある働き方を実現できる制度です。たとえば、「1ヶ月に160時間」という総労働時間の取り決めを事前に行い、その範囲内で労働者はフレキシブルに勤務時間を調整しながら働くことができます。
たとえば、体調が優れない時や子育て・介護などの家庭の事情によって、定時出勤でのフルタイムの業務が難しいケースもあるでしょう。一方でフレックスタイム制が導入されている職場であれば、ルールによっては昼からの出勤や早めの時間の退勤などの対応も自身の裁量で決められます。反対に忙しい時には集中的に働くといったメリハリのある働き方が可能です。
「就業規則等への規定」「労使協定の締結」が導入の要件
フレキシブルなワークスタイルを実現しやすい点がフレックスタイム制の魅力ですが、労働者の誰もが自由に導入できる制度ではありません。フレックスタイム制を導入するには、就業規則と労使協定で所定の事項を規定する必要があります。
その 1:就業規則等への規定
1つ目のルールは、それぞれの企業が定める就業規則へ明確に規定することです。一般的にフレックスタイム制では「コアタイム」と呼ばれる必ず出勤しなければならない時間帯と、「フレキシブルタイム」と呼ばれる労働者の裁量次第で出勤や退勤時間を自由に調整できる時間帯が設けられます。就業規則にはコアタイムおよびフレキシブルタイムの基準を明確に記載し、労務管理上のトラブルにならないよう配慮が求められます。
その 2:労使協定の締結
就業規則としてフレックスタイム制をルール化するためには、あらかじめ使用者側と労働者側が話し合い、お互いに納得したうえで基本的な枠組みを検討する必要があります。これを労使協定と呼び、総労働時間や対象となる従業員、さらには清算期間などを取り決めます。フレックスタイム制は労使どちらかの一方的な要望や強制によって実現する働き方ではなく、共通認識を持ったうえで導入することが大切です。
把握しておくべきポイント 1:
フレックスタイム制における時間外労働に関する取り扱い
フレックスタイム制は一般的な労務管理とは異なり、時間外労働に関する取り扱いや考え方に注意しなければなりません。通常、労働基準法によって定められている1日あたりの労働時間は8時間、週に換算すると40時間です。ところが、フレックスタイム制の場合は労働者側に勤務時間の裁量が与えられるため、1日の労働時間が8時間を超えたとしても即座に時間外労働に該当するとは限りません。
たとえば、ある日の労働時間が10時間であったとしても、清算期間内の総労働時間が一定期間で事前に定めた時間以下であれば、時間外労働とは見なされません。そのため、従業員が月にトータルで何時間働いているかなどを的確に把握できる仕組みが求められます。
把握しておくべきポイント 2:
労働時間の過不足に対して賃金の清算を行う必要がある
清算期間において法定労働時間の総枠を超えた場合に時間外労働とみなされますが、この場合は従来の残業代と同じように賃金の支払いを行う必要があります。また、反対にフレックスタイム制を導入したことにより、総労働時間が所定の労働時間に満たないケースも想定されます。この場合、総労働時間との差分に応じて賃金をどのように清算するのかを決めておく必要があるでしょう。
フレックスタイム制は始業および終業時刻の決定を労働者に委ねる制度ですが、これは裏を返せば労働者自らが労働時間を管理できないと成立しない側面があります。
将来を見据えるうえで導入すべきフレックスタイム制
近年、多くの企業で深刻な人手不足が続いています。そのため、優秀な若手の労働者を獲得すべく働き方改革に積極的に取り組む企業も増えています。2020年10月にBIGLOBEが調査した「ニューノーマルの働き方に関する調査」の結果によると、「20代の学生が働きたいと思う会社」として「在宅勤務やテレワークが可能な会社」がトップでした。また、「休みを取りやすい会社」「働く時間帯を自分でコントロールできる会社」の項目も上位にランクインしています。
アンケート結果からも分かるように、フレックスタイム制などのフレキシブルなワークスタイルを希望する若い学生は増加傾向にあります。企業側も働きやすい環境を整備しないと人材獲得競争に後れを取ってしまう恐れが極めて高いと言えるでしょう。
特に2020年に発生した新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、テレワークやフレックスタイム制といったニューノーマルの働き方が一層注目されるようになりました。企業によっても取り組みに温度差があることから、他社との差別化を図り時代に合ったワークスタイルを提供する意味でも、いち早くフレックスタイム制やテレワークを導入することが求められます。
フレックスタイム制のメリット・デメリットとは
従来の固定時間制とは異なり、フレックスタイム制には「先進的かつ多様な働き方」というポジティブなイメージが先行しているかもしれません。しかし、必ずしも良い面ばかりではないことを肝に銘じておきましょう。裁量が大きい働き方だからこそ、さまざまな場面で反対に働きにくさを感じるケースもあるようです。では具体的にフレックスタイム制の働き方にはどんな特徴があるのでしょうか。労働者側と企業側から見た場合のフレックスタイム制を運用する場合のメリットとデメリットについてそれぞれ解説します。
労働者側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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労働者側から見た場合、プライベートな事情によって臨機応変に仕事のスケジュール変更ができるなど大きなメリットである一方で、固定時間制以上に自らで労働時間の管理をしなければならない点がデメリットです。ルーズな管理をしていると、会社で定めたルールによっては総労働時間が不足し賃金が大幅に下がってしまうなどの危険性もあります。
また、労働者によって出退勤の時間が異なるため、お互いにタイミングが合わずコミュニケーションが取りづらいなどの事態が発生することも考えられるでしょう。
企業側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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企業側から見た最大のメリットとしては、働きやすい環境を整えることで優秀な人材獲得につながる、多様な働き方を推進している企業というイメージがつくなどが挙げられます。また、業務の繁閑に応じて労働時間を調整することにより、無駄な残業が抑制され人件費の削減にもつながるでしょう。一方、フレックスタイム制は労働者自らが労働時間の管理をするのが大原則ですが、担当者のスケジュールに合わせて業務のマネジメントも考慮する必要があります。また、制度の細かな内容をきちんと理解してもらわないと、きちんとした運用も難しいでしょう。
フレックスタイム制の導入前に押さえておくべきポイント
フレックスタイム制の導入にあたっては、「就業規則等への規定」と「労使協定の締結」が重要なことを前述しています。では企業としては、それぞれの項目を具体的にどんな手順で準備を進めるべきなのでしょうか。ポイントを解説します。
ポイント1:就業規則への規定
フレックスタイム制を就業規則として規定する際には、始業時間および終業時間について「従業員の自主的な決定に委ねる」旨を記載する必要があるでしょう。あくまでも裁量権は労働者側にあることを明記しなければ、フレックスタイム制の意味を成さないため注意が必要です。あくまでも労働者の業務の幅を広げたり、多様な労働環境を取り入れたりするという視点を忘れてはいけません。
ポイント2:労使協定の締結
労使協定ではフレックスタイム制におけるルールを細かく定める必要があります。特に以下の4つの項目が定まっていないと、フレックスタイム制の適正な運用ができないので、しっかり取り決めを行いましょう。
1.対象となる労働者
特定の職種や部署、グループなど、フレックスタイム制を適用する労働者を決めます。
2.清算期間
多くの場合は「毎月1日から月末まで」といったように1ヶ月単位で清算期間を設けるのが一般的です。しかし、業務によって繁閑の差がある場合には3ヶ月までを上限として設定できます。ただし、清算期間が1ヶ月を超える場合には管轄の労働基準監督署長に届け出をしなければなりません。
3.総労働時間
清算期間に応じて所定の総労働時間を定めます。フレックスタイム制であっても、総労働時間は法定労働時間の範囲内であることが大原則となります。
4.1日あたりの標準労働時間
総労働時間を清算期間で割ったものが標準労働時間となります。フレックスタイム制とはいえども、目安として意識しておくべき数値です。
このほか、コアタイムおよびフレキシブルタイムを設定する場合には、労使間での話し合いによって定め、その内容を労使協定に記載します。
勤怠管理システムの単体導入では解決できない
タイムカードの代わりに勤怠管理システムを導入している企業も増えていますが、必ずしも現在のシステムがフレックスタイム制に対応できるとは限りません。特に自社専用のシステムで運用している場合、そもそもフレックスタイム制の運用が想定されていないケースが大半でしょう。そのため、フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則や労使協定の策定に加えて勤怠管理システムの要件も確認しておく必要があります。
導入する勤怠管理システムが「チームスピリット」であれば、フレックスタイム制に対応した勤怠管理はもちろんのこと、従業員側からも管理者側からも所定労働時間に対する過不足時間をリアルタイムに把握できます。また、残業時間が特定の時間を超過した場合に、従業員本人やその上長にアラートメールを通知することも可能です。また、企業が抱えるマネジメント課題に対しても、チームスピリットは労務面だけでなく、業務面の可視化もできるツールとしての役割が期待できます。
ニューノーマル時代にマッチした働き方を提供できる企業に
テレワークやフレックスタイム制は、ニューノーマル時代にマッチした働き方として注目されています。社会的に3密の回避やソーシャルディスタンス、時差出勤などが求められており、ニューノーマルな現状がもはや新たなスタンダードになりつつあります。そうした時代においてテレワークやフレックスタイム制は労使ともにメリットが多く、極めて合理的な働き方であると言えるでしょう。
一方で、これらの働き方は一人ひとりが適切に管理しないとマイナスに作用することもあり、導入にあたっては慎重かつ入念な準備が求められます。合理的な勤怠管理を可能にし、これからの新たな働き方に対応するためにも、チームスピリットを効果的に活用してみてはいかがでしょうか。
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