賃金台帳の保存期間は5年 起算日や保存のポイントについて解説
著者:チームスピリット編集部
賃金台帳とは従業員への給与の支払状況を記録した重要な書類であり、事業主は賃金台帳の作成・保管が法律で義務づけられています。そのため、不備があれば労働基準法に違反する可能性があります。
しかし、保管時のルールを把握しきれておらず、以下のような悩みを抱えている方も多いでしょう。
- 賃金台帳は3年や5年、7年など保存する期間の記載が数種あり、結局何年保存すれば良いのかわからない
- 電子データでの保存に移行したいが、労働基準法に準拠した保存方法がわからない
これらのお悩みに対して、この記事では賃金台帳の保存期間とその起算日・保存する際に押さえるべきポイントを解説します。加えて、誤った方法で保存することで起こりうる問題や手書きから電子データへ移行する際に求められる対応についても解説します。
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目次
賃金台帳の保存期間は5年
賃金台帳の保存期間は原則5年間です。従来は3年間でしたが、2020年の改正労働基準法の施行によって5年間に延長されたことが、労働基準法第109条*に記載されています。
規定の保存期間より早く賃金台帳を処分したり、必要な項目が未記入であったりなど、保存・管理のルールを怠った場合は、労働基準法第120条*違反として30万円以下の罰金が科せられます。
ただし、経過措置期間中であるため3年でも可
2023年8月現在、保存期間が3年間から5年間になる経過措置中であり、労働基準法第143条3項*に3年間の保存でも許容される旨が記載されています。
*参考(PDF資料):厚生労働省|労働基準法の一部を改正する法律及び労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布及び施行について
しかし、条文には「当分の間は経過措置として3年間の保存とする*」とあり、保存期間が5年間に延長されるのは確実です。今のうちから5年間の保存を前提に、マニュアルや業務フローで保存ルールを見直しておくと、経過措置期間が終わったとしてもあわてずに対応できるでしょう。
保存期間の経過措置期間がいつ終了するかは未だ明示されていません。しかし、医療機器プログラムに関する経過措置期間が終了する際は厚生労働省のWebサイトで告知があったため、定期的に厚生労働省のサイトを確認するのがおすすめです。
*参考:厚生労働省|医療機器プログラムに関する経過措置期間がまもなく終了します
源泉徴収簿を兼ねる場合は7年
賃金台帳は源泉徴収簿の役割も兼ねることができ、その場合は7年間の保存が必要です。ただし源泉徴収簿の作成・保存は法律で義務付けられておらず、年末調整の根拠として利用した場合には7年間の保存が求められます。その際、起算日は確定申告書の提出期限の翌日になります。起算日とは保存期間の開始日のことであり、源泉徴収簿の場合はその日から7年間の保存が求められます。
賃金台帳の保存期間の起算日
賃金台帳の保存期間の起算日は、最後に賃金台帳に記録した日と台帳に記録した賃金の支払い期日を比較し、より後の日付とします。
2023年8月分の賃金台帳の保存期間について示したのが次の画像です。
上図では、8月分の賃金計算期間を2023年8月1日〜2023年8月31日とし、賃金台帳への記載完了日を2023年9月10日としています。記載完了日以前に8月分賃金の支払期日が来るのであれば、記載完了日である9月10日が起算日となりますが、支払期日が9月10日以降であれば、支払期日を起算日とします。
この画像であると、支払期日は2023年9月20日であり、記載完了日である2023年9月10日よりも後となるので、起算日はより後の日付である2023年9月20日となります。
賃金台帳の保存ルールに違反することで起こる問題
賃金台帳の保存ルールに違反すれば、以下の問題が起こる可能性があります。
- 労働基準監督署の臨検監督で罰則を受ける
- 雇用保険に関する手続きが滞る
- 助成金の申請が通らない
この章では賃金台帳が必要な場面を紹介し、適切な記載項目・管理方法を守らなければ労務上どのような支障をきたすのか詳細に解説します。
賃金台帳の適切な記載項目・管理方法については、4章の【賃金台帳を適切に保存するためのポイント】で説明しています。
労働基準監督署の臨検監督で罰則を受ける
労働基準監督署が実施する臨検監督において賃金台帳の保存方法に不備が見つかると、指導の対象となります*。その際、悪質な違反であるとみなされたり、指導に従わなかったりした場合は罰則を受ける可能性があります。
臨検監督とは、労働基準監督所が労働基準関係法令に基づいて事業場に立ち入り、機械や設備、帳簿などを調査して、労働条件が適切かどうかを確認する検査です。臨検監督の対象にはもちろん賃金台帳も含まれています。
雇用保険に関する手続きが滞る
従業員の雇用保険に関する手続きの際、賃金台帳の内容に問題があると手続きが滞る可能性があります。賃金台帳は雇用・離職時のどちらの場合も提出が必要です。
雇用時は下記の2つの場面で賃金台帳の提出が求められます。どちらも対象となる従業員の入社時からの賃金台帳が必要です。
- 事業主として初めて従業員に対して被保険者取得届を行う場合
- 被保険者取得届の提出期限(雇い入れた日の属する月の翌月10日まで)を過ぎて提出する場合
離職時は、従業員から離職票の発行を依頼された際に賃金台帳が必要になります。離職票の発行申請はハローワークで行い、申請する際、従業員の離職前2年間分の賃金台帳を提出します。
従業員の雇用・離職時にこれらの手続きを行わなければ、雇用保険法違反*となり、「6カ月以下の懲役、または、30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
*参考:e-Gov|雇用保険法 第7条
助成金の申請が通らない
ほとんどの助成金の申請には賃金台帳の提出が必要であり、記載内容の漏れや不備があると申請が通りません。
助成金の申請は、基本的に申請書類と賃金台帳を一括して提出します。受理する側は、賃金台帳を見ることで違法に働かせていないか、給与の支払いは問題なく行われているかを確認し、助成金を支給して問題がない企業かどうかを判断します。
助成金の具体例としては、キャリアアップ助成金や雇用調整助成金が挙げられます。例えばキャリアアップ助成金(正社員化コース)の場合、「正社員化前6カ月・正社員化後6カ月」の賃金台帳が求められるように、助成金によって求められる賃金台帳の期間は異なります。常に賃金台帳の適切な保存・管理を徹底し、賃金台帳の保管不備が原因で助成金の申請ができない、という事態を防ぎましょう。
賃金台帳を適切に保存するためのポイント
賃金台帳の保存に問題があれば、3章のようなトラブルが起こりかねません。この章では、法律を遵守し、賃金台帳が必要な場面で困らないために押さえるべきポイントについて解説します。
必要な項目が記載されているか確認する
労働基準法では賃金台帳に以下の項目を記載するよう定めており、改めて記載されていることを確認しましょう。
(1)賃金計算の基礎となる事項
(2)賃金の額
(3)氏名
(4)性別
(5)賃金計算期間
(6)労働日数
(7)労働時間数
(8)時間外労働、休日労働及び深夜労働の労働時間数
(9)基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
(10)労使協定により賃金の一部を控除した場合はその額
*出典(PDF資料):厚生労働省|労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう
事業場ごとに保存する
賃金台帳は事業場ごとに保存する必要があり、本社での一括保存は認められていません。事業場ごとに作成・保存しなければならない旨については、労働基準法第108条*でこのように記載されていることから明らかです。
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払いの都度、遅滞なく記入しなければならない
*出典:e-Gov|労働基準法 108条
事業場ごとの賃金台帳の管理担当者には、賃金台帳を従業員ごとに適切に記載し、所定の期間備え付けることが求められます。
各事業場で作成する上での懸念として、本社で一括できない分、作成ミスや管理ミスが起こりやすいことが挙げられます。この懸念に対してはクラウド上の電子データで管理する方法で、事業場ごとの賃金台帳をリアルタイムで確認することにより解決可能です。電子データへの移行方法については、「手書きから電子データの移行に伴い求められる対応」で解説しています。
電子データで保存する際のルールを守る
賃金台帳を電子データで保存・管理する際は以下の4つのルールを守る必要があります。
(1)法令で定められた要件が過不足なく記載されており、それを画面上に表示・印刷が可能であること
(2)労働基準監督官の臨検時に、直ちに提出すべき事項が確認できるようになっていること
(3)誤って消去されないこと
(4)長期にわたって保存できること
*参考:厚生労働省|労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか。
具体的な対策としては、いつでも賃金台帳の情報にアクセスできるように整理しておくことと、アクシデントによるデータ消失に備えてバックアップを定期的に取ることを実施しておくと良いでしょう。
賃金台帳を手書きで保存するよりも守るべきルールは多くなりますが、電子データで保存するメリットとしては、以下の3つがあります。
電子データで保存するメリット
- 物理的な保管スペースを取る必要がなくなる
- 見つけたい情報をすぐに見つけることができる
- 自動で計算してくれるため、手計算の手間が省ける
電子データでの保存は保管スペースの削減と業務効率化に大いに役立ちます。手書きでの管理を煩雑に感じている場合は、電子データへの移行を検討するのも良いでしょう。
手書きから電子データの移行に伴い求められる対応
賃金台帳を手書きから電子データでの保存に移行する際は、下記の1~3の手順に沿った対応が求められます。この章では求められる対応について解説します。
手順1:賃金台帳のフォーマットを作成・引用する
手順2:電子データにおける賃金台帳の保存・管理方法についてのマニュアルを作成する
手順3:賃金台帳の作成者に電子データの管理方法をレクチャーする
【手順1】
厚生労働省が出している賃金台帳のフォーマットのExcel(エクセル)形式のものをダウンロードしましょう。ただし、厚生労働省が出しているものはあくまで基本的な様式であり、自社の制度に合わせて扱いやすいようにカスタマイズすることが大切です。
出典(PDF資料):厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)
【手順2】
4章の「電子データで保存する際のルールを守る」で提示した4つのポイントを守るために、ファイル整理やデータ消失に備えたバックアップをどのような業務フローで行うかを検討し、マニュアルを作成しましょう。そうすることで、誰もが電子データでの保存・管理を行え、担当者が変わる場合も問題なく移行できます。
【手順3】
事業場ごとの管理担当者に対して、電子データによる作成・保管の実施方法や注意点をレクチャーしましょう。賃金台帳の管理を怠ることで起きる問題を説明すると、管理に対する意識を高められます。
まとめ
賃金台帳の適切な保存・管理方法の実施は、労働基準法の遵守につながるのはもちろん、雇用保険の手続きや助成金の申請をする際にも必要となります。この記事では、賃金台帳の適切な保存・管理のために、保存期間、起算日、保存しないことで起こりうる問題、適切な保存のポイント、手書きから電子データに移行する際に必要な対応について解説しました。
企業活動が続く限り、賃金台帳の作成・保存は義務になります。手書きのような煩雑な方法で管理を続けると、担当者に負担がかかり過ぎてしまうでしょう。
勤怠管理システムを導入すれば、従業員の勤務状況が一目で管理可能になります。勤怠管理システムが集計した労働日数や労働時間数などの情報を賃金台帳に記載するだけであれば効率が良いため、管理が煩雑で困っている場合はぜひ勤怠管理システムの導入を検討してみてください。
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