2024年改正育児介護休業法の内容<すべての企業に何らかの措置が必要>2024年に「育児」と「介護」に関する法律が改正されました。改正された内容は2025年4月1日もしくは2025年10月1日より施行(実施・適用)されます。改正内容のポイントは次の3点です。柔軟な働き方を実現するための措置を講ずることが義務化従業員数100人超の企業へ育休取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化介護離職防止のための意向確認、雇用環境整備等の措置が義務化全ての企業は2025年4月1日の施行前に対象者を確認したり、就業規則の見直しをしたりする必要があります。本記事では2024年に改正された、育児介護休業法・雇用保険法・次世代育成支援法の内容を中心に紹介します。施行日と改正内容は下記のとおりです。▼育児に関する改正改正内容施行日法改正①残業免除対象が拡大2025年4月1日法改正②育児のためのテレワーク導入が努力義務化2025年4月1日法改正③子の看護休暇が看護等休暇としてより使いやすく2025年4月1日法改正④柔軟な働き方を実現するための措置などが義務化2025年10月1日予定法改正⑤仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化2025年10月1日予定法改正⑥従業員数300人超の企業へ育児休業取得状況の公表義務化2025年4月1日法改正⑦従業員数100人超の企業へ育休取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化2025年4月1日▼介護に関する改正改正内容施行日法改正⑧介護離職防止のための意向確認、雇用環境整備等の措置が義務化2025年4月1日法改正⑨介護期においてテレワーク導入が努力義務化2025年4月1日法改正⑩介護休暇の対象者拡大2025年4月1日▼育児休業・時短勤務に関する改正改正内容施行日法改正⑪育児休業給付金の延長手続き厳格化2025年4月1日法改正⑫育児時短就業給付の創設2025年4月1日法改正⑬出生後支援給付の創設2025年4月1日企業規模別・改正内容対応表上で紹介した①から⑩までの改正内容は、企業として就業規則の整備といった対応が必要になります。企業の従業員規模別に対応が必要な改正内容を表にまとめました。〇印がついている箇所は企業で施行日前までに対応しなくてはなりません。それぞれの改正内容に対して必要とされる具体的な企業の対応については、次の章で詳細を説明していきます。企業の従業員規模法改正の内容~100名101~300名301名~法改正①残業免除対象拡大〇〇〇法改正②,⑨育児・介護テレワーク導入努力義務化〇〇〇法改正③子の看護等休暇〇〇〇法改正④柔軟な働き方措置義務化〇〇〇法改正⑤仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化〇〇〇法改正⑥育児休業取得状況の公表義務化――〇法改正⑧介護離職防止のための措置義務化〇〇〇法改正⑦育休取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化ー〇〇法改正⑩介護休暇対象拡大〇〇〇301名以上の従業員がいる企業では、改正内容全てに対応が必要になります。100名以下の企業でも、8つの改正に対応しなければなりません。改正育児介護休業法等の内容と企業の対応~育児関連~本章では改正内容の詳細と企業の対応について解説します。まずは、育児関連の法改正から見ていきましょう。育児に関する法改正は7点あります。全体像を下記の表にまとめました。▼育児に関する改正の全体像対象者施行日内容3歳前の子を育てる労働者2025年4月1日法改正②テレワーク導入が努力義務化2025年10月1日法改正⑤仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化3歳から小学校入学前の子を育てる労働者2025年4月1日法改正①労働者から申請があった場合に残業(所定外労働)免除の延長2025年10月1日法改正④柔軟な働き方を実現するための措置などが義務化小学校3年生修了までの子を育てる労働者2025年4月1日法改正③子の看護等休暇制度従業員数100名超企業法改正⑥育児休業取得状況の公表義務化従業員数300名超企業法改正⑦育休取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化育児に関する法改正の詳細を1つずつ紹介します。法改正①残業免除対象が拡大【2025年4月1日施行】改正前は3歳までの子を育てる労働者が対象でしたが、対象が小学校入学前の子を育てる労働者まで拡大されました。対象者小学校入学前の子を育てる労働者内容対象者から残業免除の申請があった場合の残業禁止企業の対応・対象者の確認・就業規則の改訂・残業免除申請様式・申請フローの見直しなお、従来からある制度の「残業制限(24時間/月・150時間/年を超える残業を禁止)」や「深夜業の制限」も小学校入学前の子を育てる労働者が対象です。企業の対応に挙げた「就業規則の改訂」は、本記事下部の「育児介護休業法の主な制度」で紹介している厚生労働省の規定例を参考にするとスムーズに進められるでしょう。法改正②育児のためのリモートワーク(テレワーク)導入が努力義務化【2025年4月1日施行】育児をする労働者へのリモートワーク選択措置が努力義務化されました。「努力義務」に違反しても罰則は設けられていませんが、行政による指導を受ける可能性があります。対象者3歳前の子を育てる労働者内容リモートワーク(テレワーク)を選択できるように措置を講ずる企業の対応・対象者の確認・リモートワーク体制の整備・就業規則の改訂法改正③子の看護休暇が看護等休暇としてより使いやすく【2025年4月1日施行】改正前は「子の看護休暇」の名称で取得事由が病気・けが、予防接種・健康診断に限られていましたが、「子の看護等休暇」となり使いやすい内容に改正されました。対象者小学校3年生修了までの子を育てる労働者内容・対象となる子ども1人について5日間の看護等休暇を付与(上限10日/年)・取得事由に学級閉鎖や入園・入学式などが追加企業の対応・対象者の確認・就業規則の改訂法改正④柔軟な働き方を実現するための措置などが義務化【2025年10月1日施行予定】小学校入学前の子を育てる労働者が、育児をしながら働き続けることができるよう、柔軟な働き方を実現するための措置を講ずることが企業に義務付けられました。対象者3歳以上で小学校入学前の子を育てる労働者内容・次の措置のうち2つ以上の制度を講ずる ・始業時刻等の変更 ・テレワーク等(10日/月) ・保育施設の設置運営等 ・新たな休暇の付与(10日/年) ・短時間勤務制度・講じた措置について労働者に対し個別の周知・意向確認をおこなう企業の対応・対象者の確認・措置の選定・就業規則の改訂・個別周知・意向確認のフロー策定企業が講ずる措置を選択する際は、過半数労働者で組織する組合や労働者代表から意見聴取の機会を設ける必要があります。個別周知・意向確認の方法は面談の実施や書面交付となる予定です。法改正⑤仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化【2025年10月1日施行予定】労働者が妊娠・出産を申し出たときや、3歳前の子を育てる労働者について、仕事と育児の両立に関する意向聴取と配慮が企業に義務付けられました。対象者・妊娠・出産を申し出た労働者・3歳前の子を育てる労働者内容仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮をすること企業の対応・対象者の確認・配慮の措置を策定・就業規則の改訂具体的な配慮の例としては、勤務時間帯・勤務地にかかる配置業務量の調整労働条件の見直しが挙げられており、今後厚生労働省より指針が出される予定です。法改正⑥従業員数300人超の企業へ育児休業取得状況の公表義務化【2025年4月1日施行】改正前は従業員数1,000人超の企業とされていましたが、改正後は従業員数300人超と公表義務の対象が拡大されました。対象企業従業員数300人超の企業内容次の①または②のいずれかの割合を公表する①育児休業等の取得割合②育児休業等と育児目的休暇の取得割合企業の対応・どちらの割合を公表するか決定・育児休業等の取得状況を把握公表すべき割合の計算式については下の図をご参考になさってください。※引用(PDF):育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内|厚生労働省公表内容は公表をおこなう日の直前の事業年度のものとなります。そのため300人超の企業は2024年度から育児休業等の取得者数を把握しておきましょう。法改正⑦従業員数100人超の企業へ育休取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化【2025年4月1日施行】従業員数100人超の企業は、一般事業主行動計画を策定することが義務付けられています。この一般事業主行動計画策定時に育児休業取得状況等を設定・記載することが新たに義務付けられました。対象企業従業員数100人超の企業内容一般事業主行動計画策定時に次のことをおこなう①計画策定時の育児休業取得状況や労働時間の状況把握すること②育児休業取得状況や労働時間の状況に関する数値目標の設定をすること企業の対応・育児休業等の取得状況を把握・数値目標を設定2025年4月1日以降に開始または内容変更する行動計画から義務の対象となります。改正育児介護休業法等の内容と企業の対応~介護関連~続いては、介護に関する改正内容の詳細と企業の対応について解説します。介護に関する改正は以下の3点です。【2025年4月1日施行】法改正⑧介護離職防止のための意向確認、雇用環境整備等の措置が義務化【2025年4月1日施行】法改正⑨介護期においてテレワーク導入が努力義務化【2025年4月1日施行】法改正⑩介護休暇の対象者拡大法改正⑧介護離職防止のための意向確認、雇用環境整備等の措置が義務化【2025年4月1日施行】介護に直面する労働者については、「介護休業」「介護休暇」「申請による残業免除」「残業制限」「深夜業の制限」「選択的措置義務」といった制度があります。これらは仕事と介護の両立させるための支援制度として「両立支援制度」と呼ばれています。改正により両立支援制度の個別周知・意向確認が義務づけられました。対象者①介護に直面した旨の申出をした労働者②介護に直面する前の早い段階にある労働者内容①について両立支援制度等の個別周知・意向確認の義務化②について両立支援制度等に関する情報提供や両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備の義務化企業の対応・両立支援制度の就業規則の記載確認・個別周知・意向確認のフロー策定・雇用環境の整備雇用環境の整備では、研修もしくは相談窓口設置等のいずれかを選択して措置することとされています。法改正⑨介護期においてテレワーク導入が努力義務化【2025年4月1日施行】育児介護休業法における要介護状態とは、負傷・疾病・身体上もしくは精神上の障がいにより2週間以上にわたって常時介護を要する状態のことをいいます。この制度では要介護状態にある対象家族を介護する労働者が対象となります。対象家族は、下記のとおりです。配偶者父母(義父母含む)子(養子含む)配偶者の父母同居かつ扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫対象者要介護状態の対象家族を介護する労働者内容リモートワーク(テレワーク)を選択できるように措置を講ずる企業の対応・対象者の確認・リモートワーク体制の整備・就業規則の改訂法改正⑩介護休暇の対象者拡大【2025年4月1日施行】改正前は労使協定締結により勤続6か月未満の労働者を介護休暇の対象から除外することができました。改正により、労使協定除外の仕組みが廃止され介護休暇の対象者が拡大することとなりました。対象者要介護状態の対象家族を介護する労働者内容対象家族1人について5日間の介護休暇を付与(上限10日/年)企業の対応除外労使協定を締結していないか確認改正育児介護休業法等の内容と企業の対応~育児休業給付金関連~ここから3点は雇用保険法と子ども・子育て支援法等の内容です。新しく作られた制度もありますので、労働者から問合せを受けた際にスムーズに回答・手続きができるよう、把握しておくとよいでしょう。【2025年4月1日施行】法改正⑪育児休業給付金の延長手続き厳格化【2025年4月1日施行】法改正⑫育児時短就業給付の創設【2025年4月1日施行】法改正⑬出生後支援給付の創設法改正⑪育児休業給付金の延長手続き厳格化【2025年4月1日施行】育児休業給付金は原則1歳まで受給できますが、保育所等の利用ができないといった理由がある場合に、最大2歳まで延長することができます。改正によって育児休業給付金の延長手続きに必要な書類が追加されました。対象者1歳以降も育児休業給付金の受給を予定している労働者内容これまでの確認に加え、「保育所等利用申込の写し」が必要企業の対応育児休業給付金を受給している対象者へ延長手続が改正されることを通知しておく※参考:育児休業給付金の支給対象期間延長手続き|厚生労働省法改正⑫育児時短就業給付の創設【2025年4月1日施行】この制度は、2歳前の子を育てる労働者が時短勤務をおこなった際に賃金の10%を支給するものです。2歳前の子と限定されているのは、時短勤務の固定化を防ぐためです。対象者2歳前の子を育てる労働者内容時短勤務中の賃金の10%を支給する(時短後の賃金と給付額の合計が時短前の賃金額を超えないよう調整される)企業の対応育児休業からの復帰者や2歳前の子を育てる労働者の時短勤務希望の有無を把握しておく※参考:雇用保険法等の一部を改正する法律等の概要|厚生労働省法改正⑬出生後休業支援給付の創設【2025年4月1日施行】この制度は、子の出生直後の一定期間内に雇用保険の被保険者とその配偶者の両方が育児休業を取得した場合に育児休業給付金に加えて支給するものです。対象者育児休業給付金を受給する労働者内容男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に、本人とその配偶者企業の対応・出生後休業支援給付の説明をおこなう・育児休業給付金を受給する労働者や育児休業する予定である者の配偶者の休業状況を把握しておく育児休業給付金の支給率が67%(休業180日目まで)であり、出生後休業支援給付の13%を加算すると休業中も80%の賃金が支給されることとなります。育児介護休業法の概要育児介護休業法は、労働者が育児や介護による退職・離職を抑制し、仕事と育児・介護の両立を図ることを目的として1992年に制定されました。制定後も出産・育児・介護を取り巻く社会環境の変化にあわせて改正が多くおこなわれています。2023年には「産後パパ育休」が創設され、育児休業に関する制度への注目度が高まっていることから育児介護休業を「育児休業法」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら2024年の法改正で介護をおこなう労働者をフォローする施策も開始されることとなりました。育児介護休業法の主な制度育児介護休業法の主な制度を下の表にまとめました。育児休業1歳前の子どもを育てる労働者が取得できる休業制度。原則1歳の誕生日前日まで、2回にわけて取得できる。産後パパ休業(出生時育児休業)男性労働者が子の生後8週間以内に通算最大4週間の休業を取得できる制度。2回にわけて取得できる。子の看護等休暇※小学校3年生修了までの子を育てる労働者について、対象となる子ども1人について5日間の看護等休暇を付与する(上限10日/年)制度。介護休業要介護状態の対象家族の介護や世話のために取得できる休業制度。対象家族1人につき、通算93日を3回にわけて取得できる。介護休暇要介護状態の対象家族1人につき、5日間の介護休暇を付与する(上限10日/年)制度。残業(所定外労働)の免除申請があった場合に所定外労働させることを禁止する制度。深夜労働の免除申請があった場合に22:00から5:00までの深夜労働を禁止する制度。短時間勤務3歳前の子どもを育てる労働者や要介護状態にある対象家族を介護する労働者が希望した場合に所定労働時間を6時間に短縮する制度。※2025年4月1日以降の制度内容を紹介しています産後パパ育休は2022年10月に創設された育児休業の制度です。男性労働者は従来の育児休業とあわせて産後パパ育休を利用することで育児休業を最大4回にわけて育児休業を取得することができます。詳しくは下記記事もご参考になさってください。【図解あり】産後パパ育休とは?制度の詳細や注意点、推進方法を解説このように、育児介護休業法の制度は多くあります。就業規則の見直しをおこなう際には、厚生労働省が公開している規定例がわかりやすいです。参考:育児・介護休業等に関する規則の規定例|厚生労働省なお、2024年法改正に対応した規定例は2024年8月24日時点でまだ公開されていません。公開までは情報収集したり会社の方針を定めたりするとよいでしょう。法改正の情報を正しく知るには労働局のサイトがおすすめ育児介護休業法や雇用保険法など労務に関する法律は幅広く、毎年のように法改正がされています。情報を正確にキャッチアップするには、会社所在地の労働局のページを確認する方法がおすすめです。労働局は都道府県ごとにあるので東京都にある会社だと、「東京都労働局」と検索しアクセスします。労働局のトップページには共通して「事業主の皆様へ」というリンクや直近の法改正を案内するリンクがあります。※引用:ホーム | 東京労働局法改正が決定したり、施行の日が近づいたりすると労働局が主催で無料セミナーをおこなうことがあります。管轄労働局のページは定期的に確認してみてください。まとめ|育児介護休業法の制度を活用して持続して働くことができる職場づくりをしよう育児介護休業法は仕事と育児・介護の両立を図ることを目的として1992年に制定されて以降、労働者に寄り添って法改正が行われてきました。2025年中には育児・介護に関連する制度が大きく変わります。全ての企業で、育児や介護をおこなう労働者の把握や就業規則の見直しが必要となります。育児介護休業法を遵守することは従業員の働きやすさに繋がり、離職率の低下や企業価値の向上が期待できます。法改正を正しく把握し社内制度の整備をおこない、従業員が育児・介護期においても継続して働くことができる職場づくりをおこないましょう。